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2025.07.17

SNSにおける「規制」と「対話」──情報時代の民主主義の条件

SNSにおける「規制」と「対話」──情報時代の民主主義の条件
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大量の情報が入り乱れる現代において、「偽情報・誤情報」の対策は重要な課題です。しかし、それは同時に「誰が真実を決めるのか?」という根深い問題を含んでいます。本稿では、各SNSが採用する異なる情報管理モデルを比較しつつ、「思想の自由市場」の法理論を踏まえた民主主義の原則について考察します。

誰が「真実」を決めるのか?

佐々木 秀智 2024年11月に実施された兵庫県知事選挙では、伝統的なマスメディアが現職知事に対する批判的な報道を繰り広げたにもかかわらず、知事は再選を果たしました。これに対し、SNS上で流布された誤情報が有権者の判断を歪めたのではないかという指摘が出ています。しかし、私はむしろSNSの普及によって、選挙をめぐる表現の自由・民主主義の理論に変化が生じているのではないかと考えています。

 SNS上での言論の応酬が、選挙結果や民意に大きな影響を与えていることは明らかです。ゆえに、偽情報や誤情報によって民主主義を損なわれるという懸念は理解できますが、同時に「その情報が誤りかどうか」を誰が判断するのかという難問も浮上しています。もしも、国家やマスメディアが一方的に「偽」を判定し、それを国民に信じるよう強制するようになると、人々の表現の自由にとって深刻な問題を生じさせるからです。

 その観点において、FacebookやInstagramを運営するMeta社が2025年1月、大きな方針転換を発表したことは注目に値します。FacebookやInstagramでは、これまで第三者機関による「ファクトチェック・プログラム」に基づいて偽情報の削除等を行ってきましたが、今後は様々な観点からの情報をユーザーが追加しあう「コミュニティノート・モデル」に変更するとしたのです。

 Meta社が採用してきたファクトチェック・プログラム(以下、ファクトチェック型)とは、ファクトチェッカーが事実確認を行い、独立した第三者機関と連携しつつ情報の正確性を評価し、当該情報が虚偽であると判定された場合、「虚偽の情報の配信の抑制」、「虚偽の情報に関する追加情報の提供」、「虚偽の情報を識別し、フィードバックする手段の提供」を行うものです。

 一方の「コミュニティノート・モデル」(以下、コミュニティノート型)は、X(旧ツイッター)などで採用されている仕組みであり、Xの場合、「誤解を招く可能性があるポストに、Xユーザーが協力して役に立つノートを追加できるようにすることで、より正確な情報を入手できるようにすることを目指すもの」と定義されています。

 ファクトチェック型にもコミュニティノート型にも一長一短がありますが、表現の自由の観点から見た場合、私はコミュニティノート型に一定の合理性があると考えています。ファクトチェック型は、一見公平に見えるものの、情報を判定する「第三者」が持つ価値観やバイアスによって判断が左右される可能性があり、結果として事実上の検閲を生み、言論の自由を損なうおそれがあるからです。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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