「コミュニティノート型」のメリットと課題
では、ファクトチェック型とコミュニティノート型のそれぞれのメリット・デメリットとは何でしょうか。
まず、偽情報・誤情報を完全に排除するという目的を第一に考えた場合には、ファクトチェック型の方が有益かもしれません。これはもともとEUの法規制の考え方に沿っており、第三者の専門家が情報判断に一定の信頼性を担保するという前提があります。
しかし、インターネットの情報の中には、客観的に真偽を問えるものと、そうでないものが混在しています。とくに後者は、情報の発信者・受信者の主観によるところが大きいと言えるでしょう。
たとえば2024年兵庫県知事選挙で見られた「現職知事は悪くない」という意見は、一部では「実際にパワハラ行為があったかどうか」とは異なる論点の、客観的根拠に乏しい憶測によって語られる向きがありました。しかし一方で、専門家やマスメディアが行うファクトチェックにおいても、そのファクトチェッカー自体が何らかの立場や視点を持っている以上、完全な中立を期待するのは困難です。また、専門家の中でも意見が割れることはしばしばありえます。
ここで指摘しておきたいのは、ファクトチェック型によって偽情報・誤情報を排除しようとした結果、多様な視点そのものが失われて、民主主義の健全な発展に必要な情報の自由な流通とそれを基盤とした自由活発な議論が阻害される可能性が常にあるということです。
その点、Xが導入しているコミュニティノート型では、ユーザー同士が投稿に対して補足情報を加えることができます。これは多様な視点の提示によって利用者が判断材料を得る仕組みです。
また、事業者(プラットフォーマー)側にとっても、コミュニティノート型はファクトチェック型に比べて運用コストが低いというメリットがあります。ファクトチェック型では、誤情報認定に対する抗議や法的トラブルが発生するリスクが高く、再検証のためのリソースも必要です。
もっとも、コミュニティノート型にも弱点は存在します。たとえば名誉毀損や著作権侵害など、迅速な対応が必要なケースでは機能しづらいことがあります。また、投稿にいくらノートが付け加えられても、元の情報を速やかに削除する仕組みにはなっておらず、深刻な害を防ぎきれない場合も考えられます。
いずれにしても長短がありますが、私がコミュニティノート型を評価するのは、民主主義の原則として、真偽を判断する権利は政府や専門家ではなく情報を受け取る個々人にあるからです。

なお、こうした考え方の基盤には「思想の自由市場」という思想があります。これは、アメリカの合衆国憲法修正第1条が保障する言論の自由に基づいた法理論で、簡単にいうと「思想(言論)もまた経済と同じく自由な市場に任せれば競争原理が働き、結果的に『真理』が勝ち残るだろう」という信念のことです。
とりわけアメリカでは、この考えに基づいて市場競争の維持が最重要視され、たとえば新聞・雑誌及びSNSは規模の大小はあれども、名誉毀損、プライバシー侵害、わいせつ表現等、市場競争原理が有効に機能しないとされたときのみ、規制の合憲性が支持されてきました。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。