
人生のターニングポイント消費者問題と法曹養成
教授陣によるリレーコラム/人生のターニングポイント【86】
私は金銭債権に関する法的問題を主な研究テーマにしていますが、東京都の外部委員として消費者問題に取り組ませていただいたことは、非常に大きな経験になりました。
2012年から8年間、都の消費者被害救済委員会の委員を務めるなかで、日本の消費者問題は、主に弁護士や裁判所を通じた「司法」ではなく、各自治体で設けられている消費生活センターという「行政」によって対応されているのが現状であることを認識しました。
消費者被害は損害額が比較的僅少なので、事務所を運営して事務員さんを雇っている弁護士さんにとって、コスパが悪く、「助けてあげたくても手を出せない」案件であると解されているようです。
その一方で、悪徳業者には顧問弁護士さんが必ずと言っていいほど付いていまして、法の間隙に付け入る「悪知恵」を業者にアドバイスしています。
結局、弱い立場の消費者は行政に救いを求めるしかないという構図になっており、にもかかわらず、公務員になる人は消費者問題を専門的に学ぶ機会が少ないというギャップに気がつきました。
そこには、法曹人の養成に傾いている日本の法学部の問題も関係しているのではないかと思います。
国は21世紀に入ってからの司法改革により、司法試験の合格者イコール弁護士の数を増やすことで国民に充実した司法サービスを提供するとしていますが、消費者問題の解決が行政の任務とされている現状では、悪質業者に悪知恵をアドバイスする弁護士を増やすだけで、国民の利益になっていないような気がします。
このような現状を踏まえ、弁護士を志す学生さんには、法律を悪用しないことを肝に銘じて学業に励んでいただきたいし、公務員志望の学生さんには、日本の消費者問題の解決の多くは行政が担っていることを自覚して、法律の勉強に取り組んでいただきたいと思います。また、企業への就職を希望している学生さんには、勤め先の会社が消費者被害を生み出さないように、法律問題の動向に注意払っていただきたいです。
法曹志望者だけが法律を理解していればよいという時代は過去の話で、現代では、公務員や会社員も消費者問題を理解して、それを解決するための法律の勉強に勤しんでほしいですね。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。