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自分が思う限界を取り払って挑戦すると、見えてくるものがある
2024.08.07

人生のターニングポイント自分が思う限界を取り払って挑戦すると、見えてくるものがある

リレーコラム
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教授陣によるリレーコラム/人生のターニングポイント【78】

私のターニングポイントは、博士課程の1年次にアメリカで訪問研究をしたことです。もともと「ずっと日本にいたい」タイプの人間だったのですが、海外での研究者との交流を経て、「海外に出て第一線で活躍したい」、そして「研究者になりたい」と思いました。

博士課程へ進む前、衛星の活用方法を提案するコンペのようなものに参加したところ、一番良い賞を受賞でき、約1カ月、海外の好きな場所へ研究に行けるという副賞をいただいたんです。当時在籍していたJAXA宇宙科学研究所の教授から、今の研究分野ならと勧められたのが、ジャック・ヒューズ博士でした。ジャックは、私の研究対象でもある「超新星残骸」の著名な研究者だったのですが、厳しいという噂もあり不安もありました。少し怯えながらメールを送ったところ、とても喜んで迎えてくれたのを覚えています。

当時の私は、英語が全くできず、なかば諦めた状態でアメリカへ。聞き取れない部分を何度も聞き返しながら、途切れ途切れのコミュニケーションで議論が始まりました。その最初の議論で、「チャレンジングだけど面白い研究と、無難だけど結果になる研究、どっちがいい?」と訊かれ、もうやるしかないと前者に即決したのをはっきりと覚えています。ジャックはいつも楽しそうに話を聞いてくれ、気になったら自分でも手を動かす人でした。とにかく一緒に研究を楽しんでくれ、上下関係などなく、私の英語でもじっくりと議論してくれました。研究がある程度固まったとき、「これは世界で我々しか知らないんだ」と研究成果を2人で眺めながら喜んだのを覚えています。その際に得られた成果は、後々、NASA から研究記事 (https://www.nasa.gov/image-article/clumpy-lumpy-death-of-star/) として紹介してもらい、多くの人の目に留まることになりました。

アメリカでは初めて会う人たちと、英語が思うように通じなくても研究の面白さを通して理解し合える経験を重ねました。もちろん、言語や文化的な違いに悩まされたことも多々ありました。そのような環境下で、自分の中で価値観が音を立てて変わっていくような瞬間を味わいました。アメリカは想像以上の競争社会で、天文学の世界でも本当に面白いことをやりたいという人たちが世界中から集まってきます。そういうなかに入ってみると、閉じこもってしまっていては、自分が思っているより先にある面白いものに出会えないことに気づきました。

帰国した半年後には再びアメリカに渡り、3カ月ほどの訪問研究へ。2018年の夏からは、NASAのゴダード宇宙飛行センターで2年半ほど研究を行い、衛星の開発や観測研究に取り組みました。ジャックは今でも、私の研究の一番の理解者です。研究を通して、今まで見たことも想像したこともない世界に出会えました。

自分がわかる範囲で面白いと感じているだけでは、結局は新規性のない状態に陥ってしまいます。そういう意味でも、世界の前線で挑戦し続けたいと考えるようになりました。世界の猛者たちが集まるなかで、生まれてくる新しいものが欲しくなったのです。自分が思っている限界を取っ払って、挑戦すると見えてくるものがある。そこでしかわからない面白さがあると感じています。そして、大学での研究にその可能性を大きく感じています。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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