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一つひとつの機会をうまく活用すれば、どこかに勝機が隠れている
2024.07.10

人生のターニングポイント一つひとつの機会をうまく活用すれば、どこかに勝機が隠れている

リレーコラム
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教授陣によるリレーコラム/人生のターニングポイント【74】

私にとって、人生のターニングポイントとなる出来事は、とくに何もありませんでした。典型的なモラトリアム人間だったので、気づいたら研究しか選択肢が残っていなかった、というのが正直なところです。ただ、万事において、何かしら奇襲作戦を考え、どうにか風穴を開けようとしてきたことが、現状につながっています。いったんこれと決めてやり始めたことを絶対にやめられない偏執狂的な性格なので、後から振り返ってみると、学者という商売にはこれ以上もない適性があったのかもしれません。

大学で経済学を専攻し、同分野の古典的名著や最新の論文を読み漁ったものの全く腑に落ちず、それがゆえに修士課程まで進みました。とはいえ、それでも興味と情熱を覚えなかった経済学で食っていく見込みもありませんでした。なので、資格を取り、手に職でもつけるかと考えたとき、大学の勉強において欧州系の言語であれば簡単に習得できた実績があったことを思い出しました。それで理由は不明ですが、なぜか第二外国語でとったわけでもないドイツ語を選び、修士の2年間は当該言語の習得に専念しました。

そしてドイツ語の通訳案内士の国家資格を取り、博士課程に進学したところ、在籍していた東京大学にある社会科学研究所の工藤章教授から、ドイツ語ができるなら自分のところで勉強するよう言われます。そこで思いついたのが、当時まだドイツでもほとんど手がけられていなかった、ドイツにおけるマネジャーの労使関係の研究です。博士課程の間、ベルリン自由大学の研究所に滞在することとなり、近くにあったマネジャーの労働組合の事務所にメールを送ったところ、好きなだけ話を聞いていいと言われたことを契機に、インタビュー調査を開始しました。

さらには実際に企業のマネジャーからも話を聴きたいと、BASFというドイツにある世界最大の総合化学メーカーに勤務する、前々から気になっていたマネジャーの方にアプローチします。この方を2001年7月にBASF本社事業所に初めて訪ねた後、今日まで20年以上、研究調査の上で何かと助けていただいています。この方を通じて、他社の多くのマネジャーの方々とも聞き取りを実施する一方で、詳細な研究計画書を送付して他の関係者にも多くの企業の関係者を紹介していただき、インタビュー調査をさせてもらっています。調査依頼や調査のときに、相手方にいい印象を持っていただくと、また次の人を紹介してもらうことにつながります。このやり方で人的ネットワークを着実に広げ、企業の現場に行かなければわからない情報を炙り出しては分析し、実証研究を積み重ねてきました。

万事において、能力や資源が足りなければ足りないで、やり方はあるというのが私の考えです。入手可能な一つ一つの機会をうまく活用すれば、どこかに勝機が隠れています。機会は待っていてもやってきませんので、こちらから仕掛けていくしかありません。大変かもしれませんが、自ら考え、アクセスし、工夫をして目標を達成するというのが私の信念です。私が専門とするドイツは遠く離れていますので、日本から得られる、例えば二次文献とかネット情報とかに基づいて研究すれば楽かもしれませんが、それでは現実を反映した研究をすることは不可能です。ドイツに関する不完全な、そして意図的に選択された情報を社会に出して大衆を惑わせるのは、真の悪人のやることです。そうではなく、この道のプロとして、研究対象に徹底的に接近して取り組むべきという職業意識のもと、研究を続けています。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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