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「研究者の推し活」
2024.06.26

人生のターニングポイント「研究者の推し活」

リレーコラム
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教授陣によるリレーコラム/人生のターニングポイント【72】

私のターニングポイントは、博士号をとって最初に博士研究員(いわゆるポスドク)として所属した東京大学酵素学研究室で、ビフィズス菌のタンパク質の研究を始めたときです。

所属先の教授が、研究に対する姿勢もさることながら人間的にもとても尊敬できる先生で、私は「人生の師匠となるような研究者」に出会うことができたと感謝しています。

最近ではアカデミアだけでなく企業の方々にも博士号の重要性が認識されている傾向にありますが、その一方で、2003年を境に博士課程に進学する人は減ってきており、博士号を取得する人が少なくなっている日本の現状は気になります。

このまま博士号をもつ人材が日本から減っていけば、母国語を使って英語論文や教科書の内容を後世に正しく伝えられる人が少なくなり、科学的根拠のない言説や擬似科学的なデータが蔓延してしまう将来を危惧しています。

大学の教員としては、大学院の修士課程、その先の博士課程に進むことを選択肢に入れたいという学生を応援しつつ、そのような学生を増やしたいと微力ながら思っています。

そのためには研究テーマや研究成果がちゃんと出せるという教員の能力と学生の能力も必要なのはもちろんですが、博士課程の生活費補助や学振制度の充実、若手研究者が希望を持てるようなその後の雇用改革など、さまざまな改善の推進が必要です。

研究者はとてもやりがいのある魅力的な職業です。しかし、厳しい競争の要素もありますし、なかには環境に恵まれない人がいるのも事実です。私もひとりの研究者として、ふとした瞬間に不安がよぎることがあります。

そんなとき私は、自分の「憧れの研究者」の方々に思い馳せるようにしています。アイドルの「推し活」が話題になっていますが、私の場合は日本や世界中に「推しの研究者」がいるのです。

その方々に、研究を通じていつか国際学会でお会いし、自分の論文を読んで「面白かったですよ」と言ってもらえる未来を想像することが、日々精進しようという私のエネルギーになっています。社会的にも「研究者の推し活」をしてもらえると嬉しいです。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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