Meiji.net

米国で2人に学んだ、アーバンデザインに欠かせない「公平性」と「ワクワク感」
2024.05.01

人生のターニングポイント米国で2人に学んだ、アーバンデザインに欠かせない「公平性」と「ワクワク感」

リレーコラム
  • Share

教授陣によるリレーコラム/人生のターニングポイント【65】

私のターニングポイントは、30代半ばでアメリカへ留学し、2人の人物に出会ったことです。

もともと建築学科を卒業し、建築デザインの仕事を手がけていましたが、バブルが弾けて終身雇用が崩れ始めたころ、私は30代半ばに差しかかっており、このままでいいのかと悩んでいました。72歳まで元気だとすれば、人生のファーストハーフを終えようとする36歳から、第3クォーターまで生きても54歳です。定年までの60歳、つまり第4クォーターの3分の1まで今のまま働くのかと考えたとき、セカンドハーフ最初の2年間を自分の充電に使うのは、なんでもないことだよなと。そう思った途端に気が軽くなり、14年ほど勤めた会社を辞めて、カリフォルニア大学バークレー校の大学院への進学を決めました。建物単体から建物と建物の間の空間に興味が移っていったこともあり、アーバンデザインについて学びたかったのです。

そこで出会ったのが、アラン・ジェイコブスという、かつてサンフランシスコの都市計画局長を務めた教授です。彼のリサーチ・アシスタントなどを担いながら、密に話す機会も多くありました。その際に学んだ最も大きなことは、「公共」という概念です。彼は都市なり空間なりを、とにかくパブリックという視点で見ていました。それが非常にシンプルかつパワフルなものに、私には感じられました。

建築の場合、多くは「クライアントに対してどうか」が主眼となりますが、アーバンデザインの場合、対象となるのは不特定多数の人たちです。自分がデザインする公共空間、自分が策定をする都市計画のルールが、公平性を生み出しているかどうかは非常に重要です。空間をデザインするにも都市計画のルールを策定するにも、人のアクティビティや権利に対してある一定のコントロールを加えることになる。それが不特定多数の人にとって公平かどうかという自分に対する問いかけを、公共性の一つの判断基準にするようになりました。

そしてアラン・ジェイコブスに紹介されて入ったアーバンデザイン事務所で、ビジネスパートナーとなるマイケル・フリードマンに出会いました。彼もまた教授の教え子でしたが、とてもパワフルで、プレゼンテーションがうまい人でした。一番衝撃を受けたのが、事務所に新しい人が入ってきたときの自己紹介で、最初のフレーズとして「I love cities.」と言ったことです。出身地や出身校などではなく「都市に対する興味が自分を突き動かしている」ということが自己紹介の冒頭に来るのは、自身の仕事に対するアプローチをものすごく表している気がしました。それ以降、私自身も仕事に対し、「いかにワクワクしていられるか」が、とても重要だと思うようになりました。

マイケル・フリードマンの影響もあり、私の研究室では、「Have fun with the city!」をモットーにしています。都市を楽しめなければ、都市に対して何かを生み出すことはできないと考えているからです。都市を設計する際に自分がワクワクできるかはもちろん、学生に教えているときも、誰かと打ち合わせをするときも、ワークショップをファシリテートするときも、そこにいる人たちのワクワク感をいかに生み出せるかが、何より大事だと感じています。何においても結局、人を動かすもとになるのは、ワクワク感なのではないでしょうか。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

  • Share

あわせて読みたい