
近年、企業経営にはDX(デジタルトランスフォーメーション)が不可欠だと、見聞きする機会が増えました。政策によるDX推進も展開されていますが、中小企業の現場では、これまでのIT化との違いがわからず、戸惑ってしまうケースも少なくありません。しかし、なぜ必要なのかを考えれば、日本経済の置かれている状況とともに、中小企業にとってのDXとは何かが見えてきます。
効率を高めることがDXのゴールではなく、あくまでも通過点
経済力の指標とされるGDP(国内総生産)において、日本は今のところ世界3位をキープしているものの、多くの日本人はその経済力を実感していないことでしょう。先進資本主義国のなかでは働いている人口が多いため、まだその座を維持してはいるものの、一人あたりの労働生産性は、決して上位ではありません。2022年12月に日本生産性本部が出した資料によれば、OECD(経済協力開発機構)の加盟38カ国中29位という結果です。
日本はなぜそんなに労働生産性が低いのか。一つは、情報技術(IT)をうまく使っていないことによる業務効率の悪さと、ITを売上増大や利益増大につながる価値創造の事業活動につなげていないことです。もう一つ、「より安く」の想いが過度になり、自ら厳しい低価格競争に飛び込んでいることも要因です。自信をもって適正価格をつければいいところを、自ら利益率を落としてしまう。過度なサービス精神なのかもしれません。買い手としてはありがたいのですが、業績が上がらなければ賃金も上がらず、消費購買力も高まらない。すると、つくっても売れないため会社の業績も上がらないという負のスパイラルに陥ってしまいます。
日本が経済的に豊かになるには、日本企業の99.7%を占める中小企業の労働生産性を向上させることが不可欠です。そして、労働生産性を高めるためにITを活用すべきだと、2001年にIT基本法が施行された頃から言われ続けています。
とはいえ単にITで効率化やコスト削減ができても、それは今日めざしているDXではありません。効率を高めることがゴールではなく、あくまで通過点。そこからさらに競争力を高め、付加価値を生みだしていく。その会社が持つ可能性を引き上げ、伸びていくことをめざすのがDXなのです。効率化やコスト削減をゴールにすると、それ以上伸びなくなってしまいます。このこと理解したうえで多くの中小企業にDX推進に取り組んでもらえればと思います。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。