
人生のターニングポイント経験してみなければ気づけない「思い込み」
教授陣によるリレーコラム/人生のターニングポイント【42】
1990年からドイツのミュンヘンで研究生活を送ったこと、21世紀に入ってからは明治大学の法科大学院に移籍したことが、私にとって非常に大きな転換点となっています。
ドイツの外国人労働者問題を調べるという役割を与えられ、ミュンヘンで過ごした約2年間で、日本にいると当たり前だと思って疑問を持たなかった多くのことが、実はそうではないのだと気づきました。例えば、何か大事件が起こった場合、日本のメディアはこぞってそのことばかり報道しますが、ドイツではチャンネルごとに扱うニュースが違います。みんなが同じことを考え、同じことに興味をもって語り合うのが普通だというのは、日本独自の捉え方。国内にいては得られなかった視点や考え方、美意識や価値観などを相対化できたのは非常に大きなことでした。
また、かつて勤めていたのは、教員養成を主目的とした郊外の国立大学でしたが、明治大学の法科大学院は、基本的に弁護士や裁判官、検事などの法曹を育てることが使命です。例えば労働法も、以前は教員になるにあたり教養として知っておいたほうがいいという視点で教えていたものの、法曹にとっては不可欠な素養。訴訟に対応できるようになるためには、深い専門性を持てるよう教育しなければなりません。しかも国立と私立、郊外と都心部、小規模と大規模、単科大学と総合大学といった違いからも、教育や研究における違いが出てきます。何事も経験しなければ気づけないもの。かつて自分では広い視野で物事を考えられる人間だと思っていましたが、実はそうでもなかったことを痛感しました。
視野狭窄にならないよう、学生にもディベートをする際には、まずは自分の意見とは反対側の一員として議論をしてみるよう指導しています。今の日本社会は、とかく一面的になりがちです。主張をするためには、どんな根拠や裏付けがあるかを学ぶことが大切です。反対意見の論拠が把握できれば、それを上回る論拠を見つけなければならないことに気づけます。対立する立場を理解することで、説得力や信頼性の強い主張ができるようにもなるわけです。視野を広くもって俯瞰する。その行為は、どんな職務においても重要なのではないでしょうか。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。