
人生のターニングポイントデンマークで気づいた日本語の「難しさ」
教授陣によるリレーコラム/人生のターニングポイント【110】
私は高校生のとき、初めてデンマークへ留学しました。その後、大学ではデンマーク語を専攻し、学部卒業後は漠然と「北欧に関わる仕事ができれば」と考えていました。
ところが、大学時代に再びデンマークへ留学した際、現地で日本語について質問を受けることがありました。「この日本語表現は正しいか」という問いには直感で答えられましたが、「なぜダメなのか」「どの場面でなら使えるのか」を説明することができず、自分の母語である日本語に興味を持つようになりました。この経験が、日本語を教える仕事に関心を持つきっかけとなりました。
さらに、「日本語教師であれば、世界中どこでも仕事ができるのではないか」と考えるようになり、日本語教師を目指す決意をしました。「日本語教師養成講座420時間」に通ってから、アメリカの教育機関で中高生に1年間日本語を教える経験を積みました。その後、帰国して日本語学校に就職する道も考えましたが、より専門的な知識と教授スキルが必要だと感じ、大学院で日本語教育を専攻することにしました。
もともと海外志向が強かった私ですが、海外での生活を通じて、自分の根っこにある日本や日本語について改めて考える機会を得たことが、今の仕事に繋がっています。
ちなみに、デンマーク語は発音が非常に難しい言語だと言われます。よく「口の中に熱いジャガイモを入れて話しているようだ」と形容されるほど聞き取りづらく、音の作り方も独特です。そのため、「どうやってこの音を出しているのか」と自分の口の動きを内省しながら練習していた経験が、現在の専門である日本語音声学の研究にも影響していると思います。
さて、ビジネスパーソンの中には、外国語が苦手で仕事や生活に困っている方も多いのではないでしょうか。特に義務教育では、文法や構文といったルールを重視する傾向があります。しかし、知識に偏りすぎると、いざ話すときに「この文法は正しいだろうか?」と考えてしまい、会話の輪に入りそびれてしまうこともあります。
欧米では「沈黙は思考停止」と見なされる文化があるため、多少文法が間違っていても、とにかく一生懸命伝えようと話すことが大切です。誠意を持って伝えようとする姿勢は、言語を超えて相手に伝わります。お互いにリスペクトを持って話せば、文法が少しくらい間違っていても、案外コミュニケーションはうまくいくものです。
このように、海外での経験や日本語教育への興味が私のキャリア形成に大きな影響を与えました。外国語に不安を感じる方も、自分の思いを伝えたいという気持ちを大切にして、積極的に会話に挑戦してみてはいかがでしょうか。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。