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どんな結果も自分で決断したと思えれば納得できるもの
2024.04.24

人生のターニングポイントどんな結果も自分で決断したと思えれば納得できるもの

リレーコラム
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教授陣によるリレーコラム/人生のターニングポイント【64】

私にとって最大のターニングポイントは、大学時代、昆虫学研究室で藤條純夫教授に出会ったことです。

もともと釣りや魚の飼育が好きで、子供の頃から養殖の研究がしたいと思っていたんです。だけど成績が足らず、めざしていた大学には入れませんでした。福岡にある実家を出て私立大学へ通えるほど裕福でもなかったため、生き物が扱えれば良いという理由で佐賀大学の農学部に進学。ところが1年次、生物学実験の科目でTA(Teaching Assistant)をされていた先輩から、自らの姿を変えることで環境に適応して生き抜いてきた昆虫たちの話を聴き、強く惹かれて昆虫学の研究室に入りました。この研究室を主催していたのが藤條先生でした。

藤條先生は、ものすごく上手に驚く人でした。「先生、こんなことがわかりましたよ!」と報告したら、「本当!?」と毎回、新鮮に驚いてくれる。研究って、面白いことを自分で見つけることも楽しいですが、それが他者に評価されるのも楽しくてやるものだと思うのですが、そのパッションを早々に与えられてしまい、もうそこからは泥沼ですね。私の小さな成功に大きな評価を示してくれるので、ついつい調子に乗ってのめり込んでいきました。

学生自身が積極的に取り組むことを全力で応援してくれる、情熱的な先生でした。いい助走を与えてもらえれば、あとは自分で走るだけ。研究者になるという私の目標も、最大限にサポートしてくださいました。別れ道にきたときには、自己責任で選べばいい。直接言われたことはないものの、自分で決めることを許してくれる先生だったからこそ、何が起きても「自分で決断したこと」だと納得できるようになりました。

今、同じ立場になって思うのは、本人に決断をさせられるのが、いい指導者であるということです。でも、それは本当に難しい。自分で選び、判断する環境をつくれるかどうかは、その人自身が進めるかどうかの境目になります。藤條先生は、いつも答えを自分なりに見つけるヒントを与えてくれていました。答えを与えるのは簡単ですし、答えを求めてくる学生も多い。だけど結局は自分が決めなければ、推進力にはならないと思うのです。

先生が私のやることをずっと見て、褒めてくださっていたのは、自分で進む方向を示してくれていたのかもしれません。近い世代で学んだ先輩や後輩にも研究者として立身している人が多いことからも、本当に“上手”な指導者だったのだと感心しています。

その後も判断をする機会は何度も訪れましたが、判断の理由を他人に投げないことだけは守り続けました。成功だったか失敗だったかは、どのみち最後に振り返らなければわからないもの。失敗しても自己責任であれば、納得できるはずだと思っています。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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