
人生のターニングポイントフランスで痛感した「人は機械ではない」
教授陣によるリレーコラム/人生のターニングポイント【41】
あまり珍しい例とは言えませんが、フランスへの留学経験は、やはりターニング・ポイントでした。
自分が生まれ育ったのとは異なる国で生活するというのは、異なるロジックで暮らす人々の社会を経験するということで、自分にとっての常識が崩れるのを幾度も感じました。
買ったばかりの食品があっという間にダメになったり、ずっと並んだ挙句の目の前で窓口が閉まったり、行政手続きのために制度的にはあり得ない書類を持って来いと言われたり、受付やレジの人たちの機嫌によって明らかに異なる対応につながったり……。
お客さんだからといって、必ずしも大事にされるわけではない。日本では、営業を延長してでも客を捌こうとしますが、フランスでは基本的にそれはありえません。並ぶほうもそういうものだと思って並んでいるので誰も文句は言わないのです。
フランスは伝統的に労働者の権利意識がしっかりしていますから、お互いに働く時間とオフの時間を大切にしています。
また、デモも盛んで、イベントのように軽食や飲み物を売る屋台が出ていたりします。大学には子どもが生まれた女性も珍しくなく、結婚したから、子供がいるからと自分の人生を変えるという感覚が薄いというか、ポジティブに人生を捉えている印象です。
とはいっても、本当に機嫌が悪いだけで突然怒られたり、逆に思いがけず親切にされたりということもありました。
そこにいる人は人間であって、機械ではないと、毎日思わされるような事態でした。
ちなみに、イギリスにも1年住みましたが、こちらはかなり建前で対応する社会なので、ドーバー海峡を挟むだけで、本当に違う国だなとつくづく思いました。
いずれにしても、知らない土地に身を置くことは、やっぱり面白いです。単純に見方が広がって、自分の中でのオプションが増える。それは、どんな年齢になっても得られることだと思います。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。