
人生のターニングポイント何気なく触れた耳学問が、突破口になることもある
教授陣によるリレーコラム/人生のターニングポイント【39】
私のターニングポイントは、イタリアで開かれた学会です。EV(電気自動車)に関する発表を聴講したことが、研究の転機となりました。
もともと私は大学時代から電力エネルギーに関する研究を続け、修士課程を終えて企業に就職してからも、その制御システムの開発などを手がけてきました。企業では、送電線設備が整っていない地域で、太陽光発電でつくった電力を有効活用するために必要な蓄電池の開発などにも携わりました。太陽光発電は再生可能エネルギーとして注目されているものの、巨大な電力貯蔵設備がない限り、多くの電力を無駄にしてしまいます。需要と供給のバランスをとりたくても、昼間と夜間、休日と平日とでは生産量も消費量も異なり、均衡を保つのが非常に難しい。その解決手段を探るべく、本学に来てからも電力貯蔵設備に着目して、据え置き型の大容量蓄電池についての研究に取り組みました。とくにコスト面やバッテリーの劣化などを調査してきましたが、社会的に実証実験はされているものの、コストの高さから現場には、なかなか導入されていないのが実情です。自身の研究に行き詰まりを感じていたとき、突破口を開いてくれたのがその学会発表だったのです。
学会発表は、EVシェアリングビジネスに関するものでした。発表を聴くまで私は、EVが有効であることを意識していたものの、そのアプローチの仕方もわかっていませんでした。しかしEVには、電力貯蔵設備と同じ役割を果たせる可能性がある。聴講後、発表者に質問をしたことで、EVの扱い方がイメージできるようになったのです。以降、どのようにすればEVを電力の媒介として活用できるかに焦点をしぼり、研究を進めています。
私は「耳学問」が大事だと思っています。たとえその時は興味がない話であったとしても、聴いてみると何かヒントになったり発想の転換になったりすることがあります。学会に限らず、新しいものに触れることは重要です。何かの道を切り拓くためには、何事にも興味を持つことが大切なのではないでしょうか。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。