2024.03.21
- 2021年10月21日
- リレーコラム
私の人生を変えた出会い
森川 嘉一郎 明治大学 国際日本学部 准教授歴史に名を残す偉人から、カリスマ性のある著名人、その道を究めた学者まで。明治大学・教授陣に影響を与えた人物を通して、人生やビジネスに新たな視点をお届けします。
教授陣によるリレーコラム/人生で影響を受けた人物【41】
深く影響を受けた人物は幾人かいますが、とりわけ今の私の仕事に直結しているのは、マンガ評論家にして同人誌即売会「コミックマーケット」の創立者の一人である故・米沢嘉博氏です。
2006年に他界され、生前に氏が築いた14万点にもおよぶマンガの雑誌や単行本、同人誌、サブカルチャー関連の蔵書が、現在、明治大学の「米沢嘉博記念図書館」で公開されています。
私が米沢さんに出会ったのは、他界される3年前、イタリアのヴェネチア・ビエンナーレ国際建築展への出展を依頼したときのことでした。
日本館展示の企画構成を担当することになった私は、「おたくの文化と空間」をテーマに設定し、その中にコミックマーケットに関する区画を設けたいと考えたのです。
なぜ国際建築展のような場で「おたく」やコミックマーケットを展示しようとするのか、いぶかしく思われかねない企画でしたし、実際に出展となれば展示物を制作してイタリアまで出張していただくことになるので、まずは「検討する」と言っていただけたら御の字だと思っていました。
ところが、はじめて顔を合わせ、私が説明を終えたその場で米沢さんは「出展します」と即答されたのです。その判断の早さに驚いた記憶が、今も強い印象として残っています。
展示は好評のうちに閉幕し、制作された展示物の保存先などについて米沢さんに相談する中から、マンガ・アニメ・ゲームを横断的かつ体系的に収蔵するアーカイブ施設の構想が形成されました。
その実現に向けて私が一進一退を繰り返していたさなかに、米沢さんが他界されてしまいました。
後に、私が本学に教職を得たり、折よく建物が空いたり、さらに米沢さんが本学の出身だったことなど、様々な偶然が重なり、ご遺族の協力のもとで、「米沢嘉博記念図書館」が、構想されたアーカイブ施設に向けたステップとして、2009年に開館する運びとなったのです。
もともと建築学の分野にいた私が、十数年にわたってマンガの図書館やアーカイブに関わることになったのも、米沢さんと人生が交わったからです。
もちろん、最初に米沢さんに出会った時は、まさか自分が米沢さんの蔵書による図書館の設立に関わることになるとは夢にも思っていませんでした。
そのような成り行きは、やや特殊な事例かもしれません。それでも、世の中に無数にある施設、無数にある会社や組織、無数に営まれている事業の一つ一つの成り立ちの裏には、それぞれさまざまな出会いが関わっているはずです。
時に、そこに想像を馳せると、世の中の見え方が、少し変わるかもしれません。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。