2024.03.14
- 2021年7月27日
- リレーコラム
新たな視点で社会や物事を捉えよう
昔農 英明 明治大学 文学部 准教授歴史に名を残す偉人から、カリスマ性のある著名人、その道を究めた学者まで。明治大学・教授陣に影響を与えた人物を通して、人生やビジネスに新たな視点をお届けします。
教授陣によるリレーコラム/人生で影響を受けた人物【28】
私はドイツ中世史の研究者、阿部謹也先生の著書『中世の星の下で』に大きな影響を受けました。
民衆の暮らしについて書かれた本の中で、特に印象的だったのが“アジール”という制度です。
中世では報復が認められており、過って人を殺してしまった場合も対象でした。過失犯が自分を守るために匿ってもらったのが、当時聖域だった教会です。このような聖域のことを「アジール」と言います。
日本では江戸時代に、離婚を望む女性が駆け込んだ縁切寺というものがありましたが、アジールは夫の暴力から逃げてきた人など、行き場のない人々を救済していました。
アジールはあくまで中世の制度だという認識が変わったのは、ドイツを旅行した大学生の時のこと。思いのほか外国人が多いことに驚き、ドイツの外国人について調べてみるなかで、教会が難民を保護していることが分かりました。
国は難民を強制送還したい、しかし難民は帰国すると迫害を受けてしまう恐れが高い。そこで教会に助けを求めて逃げ込んでいたのです。このような教会の難民保護を「教会アジール」と言い、ドイツで重要な社会的役割を担っています。
この教会の難民保護活動を知った時に、阿部先生の本にあったアジールの話を思い出したのです。中世の時代に消滅してしまったはずの「教会アジール」が、なぜ現代において存在しているのだろうという素朴な疑問・興味から、大学院での研究テーマをドイツにおける移民・難民研究にすることに決めました。
高校までの中世ヨーロッパの授業は、為政者の権力争いがクローズアップされがちで、民衆やマイノリティの生活などにはあまり目を向けられません。私は先生の本をきっかけに歴史の新たな一面を知り、社会を少数者の側の視点から捉えることによって、複眼的思考力を鍛えることができたと思います。
ビジネスパーソンの方々も、このように新たな視点から社会や物事を捉えることが重要なのではないでしょうか。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。