
2022.07.06
明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト
歴史に名を残す偉人から、カリスマ性のある著名人、その道を究めた学者まで。明治大学・教授陣に影響を与えた人物を通して、人生やビジネスに新たな視点をお届けします。
私が人生で影響を受けた人物は、学生時代の恩師の森謙治先生と、「方丈記」の作者である鴨長明です。
私は現在、森先生が研究されていた有機化学とは異なる分野の分析化学を専門にしていますが、学部生の頃や大学院生時代には先生の指導を受けていました。
あるときの課題で、「酵素を利用して化学物質を合成する」という実験のスキームをレポートにして提出したところ、森先生から「安保君、面白いね」と高く評価されたことがありました。
それは、若い頃の私にとって非常にうれしい出来事であり、いまでも忘れられません。
例えば、音楽や絵画では言葉がなくてもその良さが伝わるように、サイエンスの世界でも同じことが言えます。
使う言語が異なっても、化学実験を通して世界中の人たちと現象の「面白さ」などを共有することができるのです。
研究者においては「面白い」が共通の言語であり、最高の褒め言葉だと思っています。私は、先生のその言葉があったからこそ、これまで研究を続けてこられました。
もう一人の鴨長明に魅力を感じているのは、「方丈記」の中で、世の無常観を描いているにも関わらず、世俗が抜けきらない人間臭いところです。
「方丈記」は薄い本なので、若い頃は、海外に行ったりした際にも持ち歩いていました。いまでも、研究で行き詰ったときなどに読み直しています。
問題に直面したとき、それを乗り越える原動力となるのは、誰かからポンと言われたひとことだったり、気分転換できるなにかだったりするのではないでしょうか。
人生という長い道のりには、そういった材料をいくつか持っておくといいと思いますよ。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。