2024.03.21
- 2018年12月14日
- リレーコラム
#3 公共事業の補償って、お金を払うだけでしょう?
松浦 正浩 明治大学 専門職大学院 ガバナンス研究科 教授住民の思いや細かい本音に対応する気配りの補償がある
前回、公共事業計画に対して、市民が声をあげることが大切だと述べましたが、その声は、賛成ばかりや反対ばかりということはなく、様々なはずです。
賛成が多くて事業が決定したとしても、反対の人たちにとっては、強制的に事業が行われると思えるでしょう。実際、事業計画が決定すると、私権制限もかかってきます。
確かに、公共事業には、公共の福祉と個人の権利の対立が内在していて、それに対して様々な考え方がありますが、日本は法治国家なのですから、法律に従うということが大原則になります。
例えば、公共事業が決定すれば、私権制限がかかることは法律で定められています。それに抗し続けると、土地収用法に基づく代執行、いわゆる強制収用が行われることも法律で決められています。
強制収用が行われると、マスコミなどは大きく取り上げるので、公共事業に強制的なイメージをもっている人も多いと思います。しかし、強制収用は最終手段で、事前に十分な補償交渉が行われます。
また、補償といっても、収用する土地の価格を払うだけだろう、と思われがちですが、実は、そうではありません。
地域住民との交渉には、自治体の職員や事業者の社員が当たりますが、その住民がなぜ反対しているのか、その思いや細かい本音を聞かせてもらえるまで、本当にていねいに対応することが一般的です。その上で、その思いにできるだけ応えられる補償を提案します。
例えば、地域の再開発だからといって、昔から助け合って暮らしてきた地域の住民がバラバラになることに不安や怒りをもっている人たちには、同じマンション内に引っ越せるようにするとか、庭のある一戸建てでないとイヤだという人には、同じような物件を見つけてくるとか。
単にお金を払って出て行けというのではなく、きめ細かい気配りをしながら交渉します。そうすることで、立ち退いてもらう人たちに、少しでも納得してもらうのです。
逆に、住民の立場からすれば、自分の思いを打ち明け、それに適した補償が得られるように交渉することができるわけです。もちろん、それは適正な補償の範囲内でできることで、補償額を吊り上げるというようなことはできませんし、担当者の能力によっても交渉内容は変わってきます。
しかし、少なくとも、そうした交渉をせずに、ただ反対し続けても強制収用を受けるだけだし、訴えても勝てる見込みは、ほとんどないでしょう。
その公共事業の必要性や重要性を冷静に考え理解したら、その後は、自分が納得できるような補償を求めていくことが重要なのです。
次回は、これからの公共事業について解説します。
#1 公共事業はどうやって進められるの?
#2 市民が公共事業の計画に参画できるの?
#3 公共事業の補償って、お金を払うだけでしょう?
#4 これからの公共事業はどうなるの?
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。