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日本に「漫画」が普及していったのは、明治の後半以降

漫画の歴史、と言われたとき、みなさんはどういうものを思い浮かべられるでしょう? 鳥獣戯画は日本の漫画やアニメのルーツだ、とか、あるいは中学や高校の歴史の教科書に載っていた明治時代の国際関係の諷刺画を思い出す人もいるかもしれません。漫画が好きな人なら、戦後デビューした手塚治虫に影響を受けた漫画少年たちが東京のトキワ荘というアパートに集まって切磋琢磨して…、といった物語を浮かべるかもしれません。

私は小さいころから手塚治虫の漫画が好きで、大学の卒業論文も手塚論だったのですが、大学院に入ってからは、手塚治虫以前ってどうだったのだろうという興味であれこれ調べ始めました。それで分かってきたのは、手塚以前/以後の間には、一般に思われているほどはっきりとした断絶の線を引くのは難しい、ということと、逆に「漫画」というジャンルの成立を考えると鳥獣戯画にまでさかのぼるのは難しい、ということでした。

「漫画」というのはもともとの中国語では表現のジャンル名ではなく、ヘラサギの別名でした。その場合、日本語では「まんかく」と読むのですが、この漫画という鳥は、終日飽くことなく小魚を渉猟するということから、江戸時代には「飽くことなく渉猟する」の意味で「漫画」を用いた『漫画随筆』という書物があり、『北斎漫画』の「漫画」もあらゆる題材をあらゆるスタイルで描いて網羅するという意味だったとする説があります。

これが英語で言うcaricature(諷刺画)の意味で用いられるようになったのは、明治20年代のことです。欧米のカリカチュアに相当する絵画の一ジャンルというものが存在し(あるいは存在すべきで)、それは「漫画」の名で呼ばれる、という考え方が成立し、普及していったのは、明治の後半以降の話なのです。

鳥獣戯画が日本のカリカチュアの元祖のように言われるようになったのも、同じころに鳥獣戯画が国宝指定され、その欧文タイトルに「caricature」の語が使われるようになったあたりからだと考えられます。つまり、あとから見出された「伝統」に過ぎず、中世や近世の人はこの絵巻物を「漫画だ」と思っていたわけではありません。

これについて、詳しくは『美術史』(美術史学会)第154冊に掲載された私の論文「『漫画』概念の重層化過程」がネットで読めますので、よろしければこちらをご覧ください。

次回は、昭和の戦前・戦中期の漫画についてお話します。

#1 サブカルチャーを研究する意味とは?
#2 漫画の始まりはいつ?
#3 手塚治虫以前には、どんな漫画があったの?
#4 漫画を研究するポイントって?

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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