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2015.02.01

公共政策から社会問題を考える ―物事を相対化し、多角的に考えることの重要性―

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医師と患者の認識ギャップ

 ――医療関連では、先生はインフォームド・コンセントについて、情報コミュニケーションの視点から問題点を指摘しておられますね。

医療現場におけるインフォームド・コンセントやインフォームド・チョイスつまり、医師が患者に医療行為について十分に説明して患者の同意を得たり、患者の選択を尊重するなど患者中心の医療を目指すことですが、実態を調査してみると、医師が感じている以上に、患者は医師の情報提供が十分でないと感じ、患者の意思も十分尊重されていないと感じているという結果が得られています。一方で、患者による医師への説明は、患者より医師のほうが十分でないと感じているという結果も出ています。
これは、医療現場における同じ行為でも医師と患者の立場の違いで、その評価が異なり、自分の行為は高く評価し相手の行為は低く評価する傾向があることを示しています。このような医師と患者の認識ギャップは、医師と患者の相互の不信を招き、医療不信につながりかねません。したがって、人間は立場の違いで評価にバイアスがかかる可能性があることを理解することは重要です。そのうえで、解決策を考えるべきだと思います。
最近では”モンスター・ペイシェント”といった言葉もあるように、とくに救急車の頻繁な出動に見られるような”ワガママな患者”も目立つようです。患者中心の医療を推進することは正しいとしても、患者中心が行き過ぎていないか、医師の立場からみて問題が生じていないかなどの視点も必要だと思います。

国民性を考慮しない弁護士の増加

 ――大学は、行政と民間の仲に立ち、行政課題解決の遂行を支援しているといえます。公共政策の視点から、現在の大学の状況をどのようにご覧になっていますか。

公共政策の考え方としては、基本的に政府が出て行かないで民間で解決できればいい、市場メカニズムによって解決されるのが一番いいと思っています。それでも民間では手に負えないもの、解決できないものは、政府が出て行く必要があるでしょう。何よりも重要なことは、課題解決に対して多角的に検討し、遂行することだと考えます。
そこで、大学にも関連した公共政策の課題について一つの例を挙げますと、政府の大学教育政策で、大学にロースクール開設を伴う弁護士増加政策があります。市場原理に照らせば、弁護士を増やしても弁護士の需要がなければ、弁護士の収入が減るか職に就けない弁護士が発生します。また、供給の増加は質の低い弁護士を増やす可能性もあります。弁護士の需要が増えれば、収入は維持され、質の高い人材も参入すると考えられますが、日本で弁護士の需要は増えるのでしょうか。人口減少局面に入っていることに加え、日本人の国民性を考えてみる必要があります。
日本の国民性としては、公共の場でなるべく他人の迷惑にならないようして、トラブルの発生を回避しようとします。したがって、訴訟は多くないし、今後もそう多くならないと考えられます。弁護士を増やすという発想は、アメリカ社会を参考にしたものと思われます。アメリカは契約社会であり、契約を破れば訴訟に持ち込まれるケースが生じるため、必然的に訴訟の多い社会です。外国の制度を持ち込む際には、国民性の違いを考慮することが必要であり、需要や供給に関する配慮も必要です。
いま日本では、弁護士の就職難や大学のロースクール閉鎖が報じられています。こうした問題が生じている原因は、物事を多角的に考えるという視点が欠けていたからだと思われます。外国の制度や政策を導入する際には、物事を多角的に考え、よく熟慮を重ねた上で、導入の可否を決めるべきでしょう。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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