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2026.04.30

“真実”を欲する姿勢が弱まり続ける現代社会に警鐘を鳴らす、『スカートをはいたドン・キホーテ』

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「歴史的理性」を身につけ、虚実の見極めに注力し、一辺倒に盲信しないこと

 ガルドスは『ドニャ・ペルフェクタ』(1876年)をはじめとする傾向小説を手がけた後、『スカートをはいたドン・キホーテ』を皮切りに「現代スペイン小説集」と銘打った全24作に及ぶシリーズを精力的に発表しました。その一方で戯曲の執筆にも力を注ぎ、上演作だけでも23作を数えるなど、多方面で旺盛な創作活動を展開。そればかりか、スペインでは「独立戦争」と呼ばれるナポレオン戦争(1808~14年)の前哨戦(1805年のトラファルガーの海戦)からのスペインの歴史を時系列に沿って1シリーズ10巻で出版する《国史挿話》を企画します。

 結局は1873年~1912年の間に第5シリーズの中途まで、歴史的出来事としてはアルフォンソ12世による王政復古体制が確立した1880年まで、計46作を量産し、亡くなりました。挿絵の付いたの豪華版(1881~85年)や児童向けに手直しした版(1909年)も刊行したことから、スペイン語圏の読者に広く歴史的教養を届けようという教育的意図があったことは明らかです。

 シリーズは大ベストセラーとなったにもかかわらず、スペインの人々に歴史的教養を育むことはかなわず、“野蛮への後退”を阻止できませんでした。ガルドスが1920年に亡くなって以降、オルテガの言う大衆化はますます進み、1936年には内戦を引き起こしてしまいます。

「歴史的教養」を軽視してしまうと、たとえばファシズムを新しいもの、夢に包まれた革新だと盲信してしまう。歴史を学ぶからこそ、「あの時代の真似をしているだけじゃないのか」といったアラートに気づける。過去を考慮に入れ、ものごとを表面からではなく根底から捉える。こうすれば少なくとも正しく判断する可能性が高まるわけです。オルテガは、歴史的教養にもとづく、こうした思考方法として「歴史的理性」を提言しています。

 ある事象と向き合ったときには、そのまま飲み込まず、根拠や出典は何かということに注意を払う。生きた「真実」を追究することが大切です。いったん絶対的なものとして認めることを拒否するのです。しかし現代では、事象が広まるうちに、一辺倒な解釈以外はすべて排除されてしまいます。一方的な見方で、自分の意見を押し付けるのは文化的ではありません。“野蛮への後退”を押しとどめるには、「歴史的理性」を身につけ、虚実の見極めに注力し、一辺倒に盲信しない生き方が重要だといえるでしょう。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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