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2026.03.19

北欧ノルウェーの“フリルフツリーブ”とは? 自然と生きるライフ

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フリルフツリーブは“日本の伝統的自然観”とも重なる

 日本の野外活動と大きく異なる点として、ノルウェーのフリルフツリーブには思想的・哲学的背景があることが挙げられます。単に「自然で遊ぶ」「自然に親しむ」といった実践にとどまらず、その背後には自然観・人間観を支える理論があります。代表的な例が、哲学者アルネ・ネスの提唱したディープ・エコロジーです。

 ネスは、地球規模の環境危機の根源を「人間中心主義」にあると捉え、地球上のすべての生命に等しく価値が備わるとする「生命圏平等主義」を打ち出しました。興味深いのは、ネス自身が熱心な登山家であり、自然のなかで過ごすフリルフツリーブの経験こそが、自らの思想の原点だと語っていることです。

 さらにネスをはじめとするディープ・エコロジーの哲学者たちは、研究室の中だけでなく、実際の自然保護活動にも身を投じました。たとえばダム建設に反対する市民運動には、研究者、フリルフツリーブの指導者、地元の実践者が一体となって参加し、自然との共生を求める思想を社会的な行動へとつなげました。

 こうした点は、日本で行われる野外活動や野外教育と対照的です。日本での体験学習は、自然を「教育の場」として活用することが中心で、自然そのものを生活空間として捉えることはあまりありません。一方のフリルフツリーブは、自然を教育の道具とみなすのではなく、生物圏そのものに人間が参加するという考え方に近いと言えます。

 さらに、持続可能性との結びつきも、フリルフツリーブを理解する上で欠かせません。1980年代に「持続可能な開発(Sustainable Development)」という概念を国連に提唱した「環境と開発に関する世界委員会」の委員長は、当時ノルウェー首相だったグロ・ハーレム・ブルントラントでした。彼女の著書には、自然保護に強い関心を持ったのは小学生の頃、友達と出かけた荒野のハイキングによるところが大きいと記されており、フリルフツリーブと環境政策が強く結びついていることがわかります。

 このように、フリルフツリーブはノルウェー人のアイデンティティや思想に深く関係していますが、私自身が現地で学びながら感じたのは、この自然観は実は日本の伝統的な感覚とも重なる部分があるということでした。

 かつての日本では、家と外の境界が曖昧な住まいが一般的で、縁側で日向ぼっこをし、草履でふらりと野を歩くような、自然との地続きの生活がありました。花見、海水浴、紅葉狩り、山菜採りなども、いわば日本型のフリルフツリーブと言えるでしょう。

 人口密度は異なりますが、ノルウェーと日本はともに大陸の端に位置し国土の大きさが似ており、海に面していて急峻な山があり、冬はスキーを楽しめるなど、意外と共通点が多い国でもあります。そう考えると、現代の都市生活の中においても、日本がフリルフツリーブ的なライフスタイルを取り戻す余地は十分にあるのではないかと感じます。

 特別な装備や計画が必要な“非日常のアウトドア”ではなく、日常に自然を少し取り戻すこと。たとえば近所の緑道や川沿いを歩く、季節の移ろいを意識して散策する――そうした身近な行為も、自然と共に生きる感覚を育むきっかけになります。

 自然が存在するからこそ、人間は生活を営める。その当たり前の事実を思い出す機会として、フリルフツリーブは現代の日本社会にこそ必要なのかもしれません。

英語版はこちら

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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