
北欧ノルウェーには「フリルフツリーブ」という自然と共に生きる独自の文化があります。日向ぼっこや山歩きのようなシンプルな行為であっても、自然の中で過ごす時間そのものに価値を見いだす生き方です。幼児保育から大学の教科にまで取り入られているこの思想は、都市生活で自然との距離が広がりつつある日本に、古くて新しいヒントを与えてくれます。
ノルウェー人に浸透しているフリルフツリーブ文化
私の専門は野外教育であり、人と自然との関わりに関心があります。とりわけ関心を寄せているのが、北欧のノルウェーで受け継がれてきた「フリルフツリーブ(Friluftsliv)」という活動・思想です。
これはノルウェーの人々のアイデンティティとも言われ、2024年の統計では国民の96%が年間を通じてなんらかのフリルフツリーブに参加していると報告されています。それほどまでに人々の日常生活に溶け込んでいる文化なのです。
フリルフツリーブを日本語に置き換えるなら「野外活動」「自然体験活動」といった語が近いのですが、厳密に意味を再現するのは容易ではありません。ノルウェー語では複数の語が連結して一語を構成することが多く、Friluftsliv も「fri(自由)」「luft(空気)」「liv(生活)」がつながったものです。英語で言えば“free-air-life”または“open-air-life”であり、「野外での生活」という意味合いです。つまり、単なる余暇のアクティビティではなく、自然の中で過ごすことそのものを肯定し楽しむ“ライフスタイル”として理解されているのです。
特徴的なのは、野外で特別にハードな運動をすることや長期遠征することだけではないという点です。冒険的な登山やキャンプだけでなく、ただ森の中を歩く、湖畔で静かに過ごすといった行為も広くフリルフツリーブに含まれます。日本の伝統的な「野遊び」や、四季折々の自然を楽しむ文化にどこか通じる部分があると個人的には感じています。
ノルウェー環境局が1986年に示した定義では、「周囲の変化を経験し、自然と出会うことを目的に、余暇の時間を自然の中で過ごしたり体を動かしたりする活動」とされています。具体例としては、狩り、釣り、ベリー摘みといった狩猟採集的な営みから、スキーやサイクリングなど一般的なアウトドアアクティビティまで含まれます。
また、研究者の中には「機械的な移動手段を使わない」「競争を目的としない」「自然環境に害を及ぼさない」といった原則を提案する人もいます。フリルフツリーブはあくまで“楽しむための行為”であり、別の目的(競技・訓練・教育など)のために行うものではない、という考え方です。しかし結果として、自然と深く触れ合うことにはさまざまな教育的効果が伴っています。
実際、ノルウェーでは幼稚園から大学まで、教育課程の中にフリルフツリーブが組み込まれています。私が滞在した北極圏の街アルタでは、太陽が昇らない極夜の時期でも、子どもたちは上下つなぎの防寒着に身を包み、マイナス20度の暗闇の中を元気に登園していました。園庭や園外での遊びが当たり前で、自然を積極的に活用した保育が広く行われています。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。
