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ノルウェーで、出会ったばかりの人と行ったマス釣り
2026.03.18

研究の裏話ノルウェーで、出会ったばかりの人と行ったマス釣り

リレーコラム
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教授陣によるリレーコラム/研究の裏話【7】

2017年4月から2019年3月まで、在外研究のためノルウェーに滞在していました。

本来はノルウェー南部の首都オスロにある体育大学に在籍する予定でしたが、研究室の空きがなく、北極圏のアルタという街にある大学に所属することになりました。決まったのはその年の3月で、それまで一度も訪れたことのない土地への渡航でした。

真夜中の12時頃、雪の降る町に到着すると、受け入れ先の教授が空港まで迎えにきてくれました。もちろん会うのはそのときが初めてです。よく「ノルウェー人は人見知り」と言われますが、実際には「相手をよく観察し、丁寧に接する」国民性なのではないかと感じました。

アルタに2年ほど滞在したことは、ノルウェー独自の野外生活スタイルであるフリルフツリーブを、実際の暮らしの中で体験する貴重な時間になりました。

ある日、ノルウェー語の講習で訪れた教会で、トールさんという年配の男性と出会いました。彼は定年退職者で、私よりずっと年上です。

たどたどしいノルウェー語で「フリルフツリーブを調べています」と伝えると、トールさんは「明日、釣りに行く。よかったら一緒にどうか」と誘ってくれました。

初対面の、しかも言葉も十分に通じない外国人を気軽に誘ってくれることに驚きつつも、その二日後、私たちは山奥の湖にテントを張り、並んでトラウト(マス)を釣っていました。

トールさんが教えてくれたのは、湖に板状のフロートを浮かべ、それを引っ張りながらフライ(擬似餌)を流していく、Otter(カワウソ)といわれるノルウェーの伝統的な釣り方でした。

こうして釣り上げた70〜80センチほどのトラウトをその場で捌き、焚き火で焼いて食べたバター風味のトラウトは、広い空の下で味わうこともあって格別でした。

なお、ノルウェーではキャッチアンドリリースのスポーツフィッシングはほとんど見られず、「釣った魚は食べる」が基本です。これも狩猟採集の伝統が息づくフリルフツリーブの考え方につながっているのだと思います。

トールさんとの一泊二日の釣りは、私にいくつかの気づきを与えてくれました。

まず、フリルフツリーブを実践する者どうしは、お互いに「自然を媒介にした信頼感」が芽生えるということ。

さらに、自然を背景とすることで、「やりたいならやってみな。受け入れるから」という、主体性を尊重する姿勢がごく自然に生まれるということ。

そして、こうしたポジティブな感覚が、私の滞在中に思いがけない出会いをいくつも引き寄せてくれたということ。

これらは、フリルフツリーブの核心をついているのではないかと感じています。自然と人が共存する価値観の中では、自然と触れ合うことはすなわち、人との触れ合いにもつながります。私の研究や、大学で担当している野外活動を通して、若い人にもその豊かさを伝えていきたいと思っています。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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