Meiji.net

2025.09.18

コンクリートの寿命と向き合う——建物を守る“仕上材”の研究

  • Share

仕上材の劣化度評価方法を確立し、持続可能な建築へ

 私は2016年から、仕上材によるコンクリートの保護に関する研究に本格的に携わるようになり、屋外での暴露実験も開始しました。今では、共同研究など様々な方々の協力もあり、これから宮古島などの異なる気候条件の地域でも実験ができそうです。これにより、気候による劣化の進み方を比較でき、仕上材の長期的な性能を評価する手がかりが得られます。

opinion552_image1
宮古島の暴露場

 研究室内の促進試験と実際の環境での暴露とでは結果が異なることも多く、現地でのデータ取得は必要です。とくに、5年や10年といった長期的スパンで実環境下での変化を確認することは非常に重要だと思います。
 
 今後の社会では、建築分野においても「カーボンニュートラル」や「SDGs」など、持続可能な開発がますます重要になります。「2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする」という目標の実現に向けて、日本社会は大きな転換期を迎えていますが、たとえばコンクリートの材料となるセメントは、典型的なエネルギー多消費産業と言われ、とくに石灰石を燃やすときに大量の二酸化炭素を発生させてしまいます。

 また、同じくコンクリートの材料には、山などにある岩石を砕いて骨材(砕砂、砕石)をつくる工程があるので、どうしても自然環境に影響を与えてしまいます。さらには、建物を建て替える場合、解体に伴って生じた瓦礫をどうやって処分するかという問題も生じます。

 こうした環境負荷を減らすために、建築土木業界では再生骨材や低炭素コンクリートが使われ始めていますが、環境にやさしい材料は、耐久性の点で課題が残る場合もあります。だからこそ、仕上材でその弱点を補い、環境負荷を抑えながら、建物を長寿命化することが求められているのです。

 将来的には、建物の設計段階から、使用目的や環境条件に応じて最適な仕上材を選択できるようになることが理想です。洋服を着替えるように、適切な年数ごとに仕上材を更新していくことで建物の構造体を健康な状態に保つことができれば、持続可能な社会づくりに貢献できると思います。

 建築という仕事は、どうしても自然に対して負荷をかける側面があります。少しでもその負荷を軽減し、未来の社会に価値ある建物を残していく努力が必要です。建物の表面に注目するという、これまであまり光が当たらなかった視点から、持続可能な建築を支えること。それが、私の研究の目指す未来です。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

  • Share

あわせて読みたい