優れた仕上材は、建物を劣化因子から守ってくれる
古い建物の外壁や天井に、ヒビ割れ(クラック)を見たことがある方は多いと思います。こうしたヒビ割れは、温度差や乾燥による収縮、荷重の繰り返しなどで起きますが、とくに注意すべきなのが、内部の鉄筋が錆びて膨張し、コンクリートを内側から押し出してしまう「爆裂」と呼ばれる現象です。
本来、鉄筋とコンクリートは化学的に相性がよい材料です。コンクリートは水酸化ナトリウムを大量に含むため、pH13前後の強アルカリ性になり、不動態皮膜という鉄を保護する薄い膜が形成されます。そして、アルカリ性の環境では鉄が酸化しにくいため長持ちするのです。
ところが、空気中の二酸化炭素がコンクリートに浸透してくると、化学反応によってアルカリ性が弱まる「中性化」と呼ばれる現象が起きます。このような状況にあると、鉄が錆びやすくなってしまいます。
中性化によって鉄筋の錆が促進されると、その部分の体積が増えて内部からコンクリートを破壊します。さらに、そのヒビからまた水や二酸化炭素、塩化物イオン等の劣化因子が入り込み、コンクリートの寿命はますます短くなってしまいます。こうしたサイクルを防ぐためにも、表面に仕上材を施して外部の影響を遮断することが重要なのです。
現在、コンクリートの表面保護に使われている仕上材、特に仕上塗材と呼ばれているものには、塗膜タイプや浸透性吸水防止剤など、さまざまな種類があります。多くの研究によって、それぞれの仕上材に劣化因子の侵入を抑える効果があるものも確認されています。
優れた仕上材は、まさに建物にとっての高機能な「洋服」となり、外的環境から守ってくれます。また、古い建物であっても、全面的な改修や取り壊しを行わずとも仕上塗材であれば定期的に塗り替えることで、建物の寿命を延ばすことが期待できます。
ただし、仕上材そのものも紫外線や熱、風雨の影響で徐々に劣化します。つまり、仕上材にも寿命があるのです。そして現在、仕上材の効果を定性的に示す研究は多くありますが、どのくらいの期間、どれほどの保護性能が続くのかといった「定量的な評価」はまだ十分に進んでいません。
たとえば、ある仕上材を使うことで、建物の寿命が何年延びるのかを数値で示せれば、その建物に最も適した材料を選ぶことができます。仮設建築のように短期間だけ耐えれば良いものと、100年以上の使用を想定した建物とでは、選ぶべき材料は当然異なるはずです。
「仕上材の劣化度評価方法」が確立され、効果の定量化が成功すれば、ケースバイケースで最適な仕上材を施工することができるようになります。これによってコスト面はもちろん、無駄を省くことで環境にもやさしい建築を考えることに貢献すると思います。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。