トコジラミ、マダニ…農業害虫と同様に衛生害虫の対策にも生活史特性を知ることが重要
カメムシのような農業害虫だけでなく、ヒトを加害する衛生害虫の問題も深刻です。国際的な人の往来が増加することで海外から侵入したり、逆に海外へと移出されたりする衛生害虫も増えています。こういった衛生害虫は、デング熱やマラリアなど虫媒性疾病の増加も引き起こしています。
衛生害虫のひとつとして最近、急に名前を聞くようになったトコジラミも、実はカメムシ目の昆虫です。スーツケースやダンボール箱などに潜み、国を越えて渡ってきています。コロナの収束によって急に往来が増えたことに加えて、インターネットネット通販が増えたことも拡散の要因に挙げられていますが、いまだ対策が模索されている段階です。家に定着させてしまったら、専門業者に頼まないと駆除できない厄介な虫です。とはいえ、血が固まった特徴的なフンを残すなど、トコジラミに関する知識が少しでもあれば存在に早く気づくことにつながります。
野生動物と人間との生活圏が曖昧になることで、マダニによる被害も増えてきました。イノシシやシカには、かなりの頻度でマダニが寄生していますが、病原体を持っている確率が意外と高いのです。最近、国内外のミュージシャンたちが発症して話題となったライム病も、マダニが運ぶ病気の一つです。また2013年から日本で確認されるようになった重症熱性血小板減少症候群(SFTS)のウイルスも、マダニが運びます。SFTSには抗生物質が効かず予防接種もないので、治療も対策もできず、かかったら免疫で戦うしかありません。この10年間に日本国内でも100人以上が亡くなっています。
野生動物が人間の生活圏にマダニを連れてくるだけでなく、近年はアウトドアブームによって、人間が野山に行く機会も増えています。野生動物が出てくるような場所には、マダニが落ちている危険性が非常に高いので、動物に直接触れなくても、手足の露出を少なくするなど刺されないように対策する必要があります。
農業害虫にせよ衛生害虫にせよ、対策には彼らの生活史特性を知ることが重要です。被害に遭わないためにも被害を抑えるためにも、まずはこういった生き物が存在することを、より多くの人たちに知ってほしいと願っています。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。