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2024.04.25

地球温暖化で増殖する害虫たちの対策は、まず知ることから

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地球温暖化により北上し、近年多発しているツヤアオカメムシの大量発生

 近年、問題視されている農業害虫に、果樹を加害するツヤアオカメムシがいます。2023年には近畿地方や中国地方の各地で大量発生し、注目を集めました。もともと南方系の昆虫だったのが、福島県のいわき市や岩手県の盛岡市で確認されるなど、一気に北上しているのです。私の研究室では、千葉県出身の学生が、ナシ農家の友人から聞いた被害報告をきっかけに、2007年からツヤアオカメムシの研究を先がけて始めていたため、生活史特性の情報を発信することができています。

 ツヤアオカメムシが属するのは、果樹カメムシというグループです。40種ほどいるなかで、主要種は3種類。発生量が最も多く、全国的に大きな問題となっていたのがチャバネアオカメムシ。チャバネアオカメムシの発生が少ない北日本で被害が多かったのがクサギカメムシ。そしてツヤアオカメムシです。

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 スギやヒノキの実を食べる果樹カメムシは、もともと森の中で細々と生きていた昆虫でした。それが国を挙げてスギやヒノキを植林したため、日本人の国民病と言われている花粉症と同じく、1980年代から爆発的に増えました。

 果樹カメムシのなかでは、発生が最も多かったチャバネアオカメムシが最初に問題になり、対策に向けた研究が行われるようになりました。一方、クサギカメムシは、主として被害の多かったリンゴの産地で精力的に研究され、対策が立てられるようになっていきます。そんななか、ツヤアオカメムシは、発生地域がチャバネアオカメムシと重なっていて、発生推移や防除法が概ね同じだと考えられていたため、研究対象として重視されていませんでした。

 ところが温暖化により急に北上しはじめ、注目してみると、まったく違う部分が見えてきました。たとえば秋、日が短くなると、チャバネアオカメムシは越冬に備えて早々に休眠するのですが、ツヤアオカメムシは南方の昆虫なので、その特性がない。つまり秋が深まっても休眠しないままエネルギーを溜めつづけることができるので、翌年の大発生につながりやすいと考えています。

 そもそも果樹カメムシは果樹に被害を与えるものの、エサとしているのは脂質やタンパク質の塊である、ヒノキやスギの実です。これらの実を食べ尽くすと森を飛び出し、香りに誘われて果樹園にたどりつきますが、求めているのは果肉ではなく果樹の種。カメムシが針状の口で実を刺して探しても、種がなかったり遠すぎたりして届かないんですよ。でも吸い痕つくから売り物にならない。誰もハッピーにならない悲しいことが起きているんです。一般的に、農業害虫はエサとなる植物を食い荒らすことで農作物に損害を与えるわけですが、果樹カメムシにとって果樹がエサではないので、農薬をまいたらすぐに逃げてしまう。そこに果樹カメムシ対策の難しさがあります。

 とはいえ、生活史特性がわかってきたことで、対策の糸口も見つかりつつあります。ツヤアオカメムシは、スギとヒノキ以外にも、植樹するため日本に持ち込まれたナンキンハゼが大好物であることがわかってきました。私たちが調査をしている静岡市清水区の公園では、20本ほどのナンキンハゼにものすごい数が集まってきます。必ず見つけられるような木があるのは重要です。果樹園の近くにナンキンハゼがあれば、チェックポイントにしておくことで農薬をまくなど対策のタイミングが計れます。

 農薬もどんどん進化し、安全性が高いものも出てきました。それでも、殺虫剤の散布をくり返すと効果が低くなる(抵抗性が発達する)ので、利用は最低限に抑えなくてはいけません。そこで考えられるのが、いわゆる天敵昆虫を活用しての生物的防除です。特に自然界に生息している土着の天敵を利用する方法は、環境への影響も抑えやすいと言えます。ツヤアオカメムシの場合、天敵となる生き物が3種類わかっていて、まれに体の中から出てくる細長いシヘンチュウ、卵に寄生する卵寄生蜂、成虫のお腹の中に寄生するヤドリバエです。なかでもヤドリバエの1種は、野外で採ってきたツヤアオカメムシの約半数が寄生されていたこともあったので、うまく役立ってもらえるよう、生活史特性の調査を急いでいるところです。

英語版はこちら

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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