無人走行では、法令も抜本的に見直さなければならない
日本で自動運転が発展したターニングポイントは、2013年に東京で開催されたモーターショーとITS(Intelligent Transport Systems:高度道路交通システム)世界会議です。当時の安倍晋三首相が、国会議事堂周辺の道路で自動運転車に乗りプレゼンを行い、国家戦略として自動運転技術を進めようと号令をかけたことが大きく影響しています。これにより、内閣官房が旗振り役となり、事故を懸念し自動運転に否定的だった警察庁、国の産業として推進したがっていた経産省、自動車局や道路局などを有する国交省を一本化。さらに自動運転に不可欠な電波を統べる総務省も入れた、5府省庁を中心に計画を進めていきました。
日本の悪習とも言うべき縦割り行政に横串を入れられたおかげで迅速に進み、2015年からは法整備の課題が検討され始め、その後、国交省や経産省などで、社会実装に向けた実証実験が行われるようになりました。2018年には「自動運転に係る制度整備大綱」を公表。この大綱の特徴的なところは、自動運転車両と従来の車両が混在する、過渡期を想定した法制度のあり方を検討してる点です。自動運転はまだまだ技術開発が発展途上にあるとし、国際的動向や技術的動向を踏まえ、「柔軟に対応可能な法制度を想定し、今後、新たな対応が必要な内容が生じた場合は制度改正を行う」と謳っています。
こうした流れを受け、2020年にレベル3、2023年にレベル4の自動運転を認める改正道路交通法が施行されました。私も参加した日本損害保険協会の「ニューリスク研究会」では、レベル3までは現行の自動車損害賠償保障法と自賠責制度が妥当だという見解を提示。その一方で、レベル4以上の無人走行は、従来の自動車とは別のものと捉え、自動車に関する法令などを抜本的に見直したうえでの議論が不可欠だと指摘しています。
安全設計が十分ではなかったとして、メーカーの設計者が刑事責任を負うとなると、技術開発の妨げにもなりかねません。自動運転にかかる事故の法的責任に関しては、損害賠償の責任をもつ民事責任と、刑罰を受ける刑事責任を区分けし、明確化する必要があります。民事責任では、設計や製造上の欠陥の有無が大きなポイントになる。レベル4の自動運転では、事故前後の車両の情報を記録するEDR(イベントデータレコーダー)や走行データの記録装置の装着が義務づけられました。
さらに今後は、販売側の責任も今まで以上に問われることになるでしょう。自動運転の安全装置には機能限界があるということを、購入者がしっかりと理解できるよう説明する義務が出てくるからです。それが十分でなく、システムを誤解して事故が起きた場合は、販売業者が責任を負うべきだという議論も進んでいます。自動運転車を購入する際は、重要事項の説明を受けて署名するだけでなく、危険性をシミュレーターなどで体験することになるかもしれません。いずれにせよ、システムを過信しないよう、社会に対する教育も大事です。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。