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湿地のメカニズムを解明し、未来を予測する

 湿地の消滅は、その生態系に影響を与えます。第一には、湿った場所に生息する植物や生物への影響が懸念されます。希少種保護の観点からは、できる限り現状を維持できることが望ましいですし、美しい自然景観が失われれば観光業も大打撃を受けるでしょう。

 では、こうした気候の変化に対して、どうすれば湿地を存続させられるか。これは実のところ非常に難しい問題です。土地開発などの人為的な影響を除くと、自然環境の時間経過による変化自体を止めてしまうということは、なかなかできません。

 ですが、湿地の成立メカニズムや発達プロセスを研究する地形学的アプローチを用いれば、湿地が気候変動に対してどのように反応するのかを予測し、数ある中でも比較的保護しやすい湿地を見極められるようになるのではないかと私は考えています。

 そもそも山岳湿地は、地形、気候、水文、植生の条件が複雑に絡み合って成り立っています。形成のきっかけも、涵養源(水の供給元)も様々です。たとえば火口に水が溜まる場合、溶岩が流れた跡に沿って形成される場合、あるいは地すべりでできた窪地に形成される場合では、それぞれに湿地の性質が異なります。

 したがって、地球温暖化という気候変動の中で、それぞれが比較的近い場所にあっても、立地条件によっては、雪田草原のようにその影響で乾燥しやすくなる湿地と、比較的長く続くだろう湿地が存在するのです。

 私はこれまで、主に東北地方の奥羽山脈で研究を進めてきましたが、たとえば、秋田県と岩手県にまたがる八幡平の積雪分布と湿地分布を重ねてみると、積雪の少ない鞍部にも多数の湿地が形成されていることが確認できます。鞍部とは二つ以上の山頂に挟まれた峠の部分で、そこでは残雪ではなく周辺斜面から流入する水が湿地の重要な涵養源になっているものと推察されます。

 また、地すべり地の窪地にできた湿地では、地下の水脈が断ち切られて湧き出す豊富な地下水が涵養源となっています。ですから、気候変動の影響をあまり大きく受けずに、湿地は非常に長く維持されると考えられます。しかし、この湿地も侵食が進んだり、地すべりが再滑動して埋められたりすれば、消滅してしまうかもしれません。

 様々な形成要因の湿地、つまり、気候変動に対する応答性が異なる湿地が同一地域に存在するということは、気候変動に対して多様性の高い生態系を維持する上でとても重要です。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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