地震と共存するための知恵と技術をさらに高める
まず、見かけの重さを瞬時に変えるための素材として、私たちは磁性流体を用い、その実験に成功しました。
磁性流体とは、要は、砂鉄を含んでいるような液体で、磁力に反応します。
そこで、この磁性流体を入れた容器の外側から電磁石で磁場をかけると、フラットな状態だった水面が瞬時に壁面にへばりつき、容器に慣性モーメントが働いたのです。すなわち、容器の見かけの重さが変わったのです。しかも、この現象は、電磁石のオン、オフによって瞬時に発生させることが可能です。
この実験の成功は、まだまだ第一歩で、これで、すぐに、新しいダンパの開発に繋がるわけではありません。
そもそも、慣性力や慣性モーメント自体は昔から知られ、解明されている現象ですが、それを振動の減衰に利用する研究はほとんどありませんでした。いま、その研究を進めている私自身、これがダンパに活かせるのか、未知数というのが本音です。
しかし、新しい発想で、未知の分野を開拓してきた、その積み重ねが、いま、使われている優れたダンパを作り上げているのです。
実は、海外の研究者などから、揺れを減衰させる日本の技術は特別と言われるほどで、世界一と言っても過言ではありません。
それは、世界でも有数の地震国である日本は、古来から地震と共存するための知恵を重ねてきたからです。現在、建築物に対する日本の地震対策の規制は世界基準を上回っており、その基準が守られた建物が実際に建てられているのです。
こうした知恵の積み重ねに、本学も貢献してきました。
例えば、生田キャンパスの振動実験解析棟には、地震などを再現できる大きな振動台が設置されています。これは、大学の実験施設としては規模が大きく希少です。そのため、耐震装置などを開発する企業から、試験の依頼がよくきます。
本学の先人の方々は、こうした施設を基に、地震と共存する社会のための研究を重ねてきたのです。私たちの研究室も、そうした歴史の中で、新たな発想による、より優れたダンパの開発にたずさわっていきたいと考えています。
地震と共存するための日本の技術開発はさらに歩みを進めていますが、一般の生活者の皆さんも、地震に関する正しい知識を積み重ねていただきたいと思っています。
現代は、スマホやパソコンで手軽に様々な知識や情報を得ることができますが、一方で、その情報は玉石混淆です。基本的な正しい知識を身につけることで、それらを自ら取捨選択できるようになります。
研究者レベルの知識ではなくても、ゼロよりは0.1、0.1よりは0.5あれば、間違った情報に惑わされることもなくなっていくはずです。
研究者だけでなく、皆さんの知識レベルが高まっていくことで、地震と共存する社会のレベルが上がります。それは、私たちの社会が豊かな社会になっていくことに繋がっていくことだと思います。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。