
2023.03.23
明治大学の教授陣が社会のあらゆるテーマと向き合う、大学独自の情報発信サイト
節税や租税回避は企業だけではなく、個人にも拡がっています。資産家による相続税対策として代表的なものに、マンションなどの不動産を使ったスキームがあります。
これは、銀行から多額の借り入れをして不動産を購入し、相続税の申告の際には通達を基に物件の財産評価を行ったうえで、それを銀行からの借り入れで差し引き、相続税額を低く抑えるというものです。
ところが、このスキームによって相続税を0円と申告した納税者らに対して、国税当局がこれを認めずに更正処分を行ったのです。相続人たちはそれを不服として訴訟を起こしましたが、2022年4月、最高裁で国税側の勝訴が確定しました。
このとき、裁判所が指摘したのは、通達に定められた評価を用いることによって、不動産の財産評価を大幅に圧縮できることを、納税者が意図して行ったということです。
実際、被相続人が銀行から借り入れをしたときの稟議書に「相続対策のため」と記されていたこともあり、多額の税負担回避を意図的に狙ったものと見なされたのです。
先に述べたように、欧米諸国では税を納める方法なども影響し、個人の財産に対する権利意識が高いため、徴税からできるだけ財産を守りたいと考えますが、だからこそ、納めた税金がどのように使われるのかということにも関心がむけられます。
一方、日本では、多くの納税者が税金の納め方を知らなくても、会社が手続きを行ってくれるので、納税の義務があることは知っていても、そういった意識は高くありません。昨今、租税教育の充実に向けた取組が行われていますが、こうした動きは今後ますます重要になっていくと思います。
そうした知識が培われれば、税金を必要以上に納めることを防ぎ、自分たちの財産を守ることにもつながります。もちろん、それが行き過ぎた租税回避になったり、違法行為に結びつくようなことはあってはなりません。その意味でも、税に関わる正しい知識をもつということが重要になるのです。
(可能な限り専門用語を使わずに表現をシンプルにしたため、記載が概括的になっている部分があります。)
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。