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人と機械の関わり方から、人と人のコミュニケーションを考える

小林 稔 小林 稔 明治大学 総合数理学部 教授

コミュニケーションの本質は変わらない

 近年では、様々なデジタル機器が情報伝達のために使われるようになっています。しかし、デジタルネイティブにとっては、インターネットやスマホは、単なる情報授受の道具ではなく、信頼関係を築くための道具にもなっていると思います。

 例えば、SNSは情報を伝えあう場だけでなく、そのなかで、自分がどのように認知されているのかがとても重要な場になっています。つまり、そこに自分の居場所があるのかどうかを確認しながら、ひとりひとりが情報のやり取りをしているように思います。

 しかし、そこでのコミュニケーションの作法というものが、まだできあがっていないのです。そこで、気持ちを伝える絵文字や、既読の早さなどが重要視されたりします。絵文字が少ないとか、すぐに既読にならないことに、彼らはとても気を遣い、傷つくこともあるのです。

 例えば、郵便の手紙をやり取りしていた世代には、そんなデジタルネイティブが理解できなかったり、道具に振り回されてかわいそうと思うかもしれません。

 確かに、手紙世代は、自分の手紙がすぐに読まれたかどうかを気にするようなことはほとんどなかったでしょう。

 しかし、手紙にも、頭語、時候の挨拶、結びの挨拶、結語などをはじめ、堅い調子やくだけた調子の文面にするなど、様々な作法があり、適った作法でなければ、失礼な人と思われ、怒られたり嫌われたりしていたと思います。しかも、手紙の作法は時代とともに変遷しています。

 SNSも、そうした手紙と同じなのです。ただし、手紙と異なるのは、スマホを持っていることが当たり前の彼らにとって、SNSは、積極的に参加する人ばかりではなく、否応なくでも参加する必要があることです。

 つまり、スマホはコミュニケーションの手段というだけでなく、そこで展開されるSNSは、ひとつのコミュニティの空間そのものでもあるからです。

 ところが、いまの学生たちも、気の合った仲間ができると、よく旅行や食事に出かけます。それは、自分のプライベートな部分を曝け出したり、癖や嗜好を露わにすることに繋がります。

 でも、ある意味、自分の弱みとなるような部分を見せても良い、ということが信頼関係を築き、自分の居場所を確保するための要因になることを、彼らも感じているのかもしれません。

 つまり、それ以前の世代に比べ、コミュニティの多様化はあっても、コミュニケーションの本質は変わっていないのだと思います。

 コンピュータを使って人と人の協同作業を支援することに取り組むCSCW(computer supported cooperative work)は、私の研究分野のひとつです。

 そこでは、人と機械との関わり方が大きなテーマになりますが、重要なのは、それが人にとって、どういう意味や価値をもたらすのかという視点で見ることです。つまり、人を中心に考えることです。

 機械やAIが進歩し、人はそれに振り回されるようになるというのは古典的なSFによくあるストーリーですが、現実の人は、柔軟である一方、本質的な部分はなかなか変わることはないのではないかと思います。

 どんなに便利な道具が開発されても、普及しなかったり、意外な使い方をされたり、意外な価値を見出されることがあります。つまり、人は道具によって変わることもあるし、コミュニケーションの手段を多様化させたりもしますが、その道具が使われること自体が、人の選択なのです。

 例えば、いま、自動運転の車の開発が進んでいます。これが実用化されれば、交通事故は激減するでしょうし、人は、いままでよりも早く楽に移動することができるようになるでしょう。自分がハンドルを握り、車線変更にドキドキすることもなくなるのです。

 でも、車線変更のときにスペースを空けて合流させてくれた人に対して感じる、うれしいような気持ちも、もう感じることはなくなります。

 それは、ウインカーで車線変更のサインを出し、それが伝われば、それで完成、ではないからこそ生まれる気持ちです。つまり、車線変更で起こっていることも、人と人のコミュニケーションなのだと思います。

 さて、AIや高性能な機械に管理されて利便性は高いが、一方で、人と人のコミュニケーションや関係性は希薄になるような自動運転の車は、どのように選択され、普及するのでしょうか。あるいは、意外な使われ方をするようになるのかもしれません。

 それも、私がウォッチングしていきたいと思っている、人と機械の関わり方のひとつです。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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