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行動経済学によって人は自由になる? 従属的になる?

後藤 晶 後藤 晶 明治大学 情報コミュニケーション学部 准教授

自由意志によるより良い選択に導くナッジ

 国や自治体、行政機関などにとって、例えば、コロナ禍でマスクを付けるなど、人々に行ってほしい行動があります。それは、社会全体にとって良い、合理的な行動であったりするわけです。

 しかし、こうしましょうとか、こうしてください、あるいは、こうすれば社会は良くなります、とストレートに言っても、人々の行動は簡単には変わりません。

 人は、誰かから命令されたり、禁止されたことよりも、自分の自由な意思で決定したことを行いたがるからです。それを研究し、活用しようというのがナッジの考え方です。

 例えば、面白い例として、アメリカの大学の寮のシャワールームに、環境問題にうるさい政治家の顔写真を貼った取り組みがあります。その結果、水道代と電気代が半分くらいになったのです。

 すなわち、顔写真があっては、シャワールームを他人に覗かれているような気分になるし、それが環境問題にうるさい人であることで、シャワー時間が短縮されるようになったのです。

 同じような取り組みとして、日本でも、神社の鳥居の模型を道端に置いたり、シールにして貼るという例があります。ゴミの不法投棄や立ち小便をさせなくする効果があるのです。

 一般的な社会人であれば、環境問題や神様を通して、自分の行動を省みる感覚をもっていると考えられます。そうした心理や倫理観に働きかけることで、人に、自分の意思でより良い行動を選択させることに繋げたのです。

 広島県では、災害時の避難の呼びかけとして、「あなたが避難することは人の命を救うことになります」というメッセージを、「あなたが避難しないと人の命を危険にさらすことになります」にしたところ、避難してもよいと考えた人が増えたという調査があります。

 実際に、自ら早期に避難しないことによって、その救助のために2次被害が起こることもあります。そうした迷惑をかけたくないという、日本人的な心理に強く働きかけることで効果を上げたと考えられます。

 このように、行動経済学の考え方は、経済やマーケティングの分野を越え、社会をより良くする政策や町づくりにも活かされるようになっています。

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