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動物の移動や行動がわかると、効果的な環境保全もわかってくる

明治大学 研究・知財戦略機構 特任准教授 山本 誉士

現場から得られる新たな気づき

町田 一兵 私が研究をする上で大切にしていることは、自然の中で、とくに目的を持たずにゆっくり過ごすことです。

 人は目的をもつことで取り組む内容が明確になりますが、逆に、他のことについて意識しづらくなり、視野が狭くなってしまいがちです。一方、なにも考えずに、ゆっくりと周りを見回していると、いままで気がつかなかったことに、気づくことがあります。

 例えば、ある海鳥の行動データを解析した結果から、夜間の行動にきれいな周期性があることが確認されました。そして、その周期は月の満ち欠けと連動していることもわかり、満月の夜には行動が非常に活発になっていたのです。しかし、その理由はよくわかりませんでした。

 ところが、都会にいると気付きづらいのですが、大自然の中で過ごしてみると、夜は本当に真っ暗です。しかし、満月のときは、懐中電灯がいらないほど明るくなることが実感できます。

 満月が明るいことは知識としては知っていますが、実際に自然の中で過ごすと、その明るさが本当によく実感できます。すると、このとき、海鳥の活動が月夜に活発になる理由が、スッと理解できたのです。満月は明るい。単純なことなのですが、知識として「知っている」だけでは、事象同士を結びつけることが困難なことがあります。

 近年、行動生態学の分野でも、目的(仮説)を検証するためにデータを集める仮説検証型のスタイルに加え、データを基に特徴やパターンを探求する、データ駆動型の研究スタイルが発展しつつあります。

 確かに、これまで考えつかなかった結果を得る上で、データ駆動型は効果的な手法ではあります。しかし、手持ちのデータでなにを見るのか、どのように解析するのか、解析結果がなにを意味するのか。すなわち、データによって、私たちはなにを理解していると言えるのか。

 それを知るためには、そのデータや解析結果が自然や現実社会において何を意味するのかを理解することがとても重要です。そして、その気づきは、既存の知識の集約に加え、実際の自然という現場からも得ることが多くあると思っています。

 机上の知識と現場での体験、そのどちらかではなく、両方を橋渡しできる軽やかな思考こそが、ビックデータ時代の到来には重要となってくるのではないでしょうか。

 一方、最近では、動物園や水族館、畜産において、飼育動物の福祉と健康の向上を目指した飼育環境改善、すなわち環境エンリッチメントにも、バイオロギングの手法と統計解析を活用して取り組んでいます。

 実は、飼育動物を一日中観察することは、飼育スタッフの人たちにとっても、様々な作業を抱えているため、困難なことだったのです。そのため、基礎的な生態の理解や、飼育環境の改善効果の検証において、より効率的な行動モニタリングが求められていました。

 この点において、データロガーを用いれば、動物の行動の定量的なデータを長期的に効率よく取ることができます。そして、そのデータを解析することで、飼育環境の客観的な評価が可能になるのです。

 データロガーにより記録された行動の数値データは、解析プログラムを確立することによって、飼育スタッフの人たちも簡単な操作で結果が得られるようになり、飼育環境の評価や改善に活かすことができます。また、畜産においては、肉の質と活動量の関係といった、生産性向上の理解にも繋がります。

 このような取り組みは、環境エンリッチメントへの貢献として、関連団体から高い評価を得ています。しかし、データロガーを用いた行動モニタリングは、まだ世界的にも例が少なく、将来的には、これをグローバルスタンダードとして普及させていくことを考えています。

 実は、この研究テーマも、たまたま動物園に行ったときに思いついたものです。やはり、現場で、一見、無駄な時間を過ごすような中から、気づきや知識同士が繋がることは多いのだと実感しています。それは、ビジネス社会でも同じではないでしょうか。

 コロナ禍も相まって、最近は田舎暮らしや自然の中でのキャンプが人気です。便利で快適な人工環境が過ごしやすいと思っている私たちも、心身のどこかで自然環境に安らぎを感じているのかもしれません。

 そのような自然体験を通し、知識ではわかっている、環境保全やサステナビリティの重要性について、ぜひ感じてほしいと思っています。また、自然環境でも都市環境でも、リラックスした気持ちで様々なことに目を向けることで、頭の中にある知識同士の架け橋がきっと増えていくはずです。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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