2024.03.21
低価格志向と食の安全・安心
中嶋 晋作 明治大学 農学部 准教授行動経済学や輸出を重視するのも有効な戦略
近年、経済学では、行動経済学の視点を取り入れることが注目されています。
その背景には、消費行動は合理的な判断によってなされているわけではない、ということがあります。消費者の行動原理を探っていくことが行動経済学であり、そこで得た知見を活かしていくことがマーケティングのポイントになるという考え方です。
例えば、私たちが醤油を購入しようとするとき、各社から出ている商品の特徴や価格を一つ一つ比較し、自分に適したものを合理的に選んでいるかというと、決してそうではないと思います。
実は、最も売れる商品は、店の売り場の棚のなかで、消費者の目線の高さにあるものなのです。
消費者は棚の上から下まであるすべての商品を比較しているわけではなく、目についたものの中から、商品名を聞いたことがある、商品ラベルのデザインが良い、とにかく安い、といった理由で商品を選択することが多いのです。
すると、小売店側にとっては、消費者にアピールしたい商品を目につく棚に置いておくことで、その販売量を増やすことができるかもしれません。こうした販売方法も行動経済学の視点を活かして工夫することができるのです。
しかし、人口減少、高齢化が続く日本社会で、食品市場が大きく膨らむことは期待できません。
食品企業や農家にとっては、小さくなっていくパイを取り合うことだけにとらわれるのではなく、海外に目を向けることも必要です。
輸出においては、自国の近くに大きなマーケットがあることが重要と言われています。特に、新鮮さが求められる食品については輸送期間が短いことが重要です。
その意味では、これからも人口が増え、人々の所得も上がっていくであろう中国や東南アジアが近くにある日本は、とても有利です。
2013年に和食がユネスコ無形文化遺産に登録されたことも追い風になると思います。農家の方々も、国内だけでなく海外に目を向けるチャンスです。また、自分たちが作った農産物が海外でも受け入れられることは、売り上げだけでなく大きな自信にも繋がると思います。
コロナの世界的流行は、海外の人にも食の安全・安心に対する意識を高めたと思います。コロナ後は、日本のアグリビジネスにとって大きなチャンスになるのではないでしょうか。
一方、私たち消費者も、近年、重視されるようになっている食育を若いうちからしっかり学び、賢い消費者となることも大切です。
また、食は、工業製品とは違い、経済的な理由や、自分の嗜好だけで選んでいては、自分自身に害を及ぼすことになりかねません。社会人の皆さんにも、生活習慣病などについてあらためて学んだり考えたりすることを通じて、安全・安心な食料消費について関心を持ってもらえたらと思います。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。