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2019.04.03

人間らしい暮らしと仕事の創造者「協同組合」

人間らしい暮らしと仕事の創造者「協同組合」
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近年、労働者協同組合(ワーカーズコープ)が世界的に注目されています。ヨーロッパや韓国などではすでにあるワーカーズコープの法制度はいまだ日本にはありませんが、現在、実践者・自治体・政治家などの長年の働きかけによって「労働者協同組合法(仮称)」がつくられようとしています。ワーカーズコープとはどのような組織で、いま、なぜ注目されているのでしょうか。

資本主義社会の中で必然的に生まれた協同組合

大高 研道 協同組合と聞くと農協、生協、漁協、森林組合などを思い浮かべる人が多いかもしれません。実は、信用金庫や全労済なども協同組合で、私たちの暮らしの身近なところに協同組合はたくさんあります。

 そもそも協同組合とはどのような組織なのでしょうか。現代の協同組合の原初形態ともいえる取り組みは、産業革命期の1844年、イギリスのロッチデールという小さな町で生まれました。その目的は、生活苦に直面する労働者たちが、自分たちの暮らしを良くすることでした。

 当時の労働者は、給料をすべてお金では貰えず、勤務する工場などが経営する商店でしか使えない、商品券のようなものを支給されていました。

 ところが、その店で売られているものは、石灰を混ぜて量を増やした小麦や、色をつけた再利用の紅茶など、まがい物が多かったのです。

 そこで、労働者たちは、安全で安心なものを普通に買える店を、自分たちでつくろうとしました。

 この取り組みは、自分たちの暮らしをより良くしたいという思いから始まりましたが、それは、産業革命以降、急速に形成される、営利を追求する資本主義経済社会の中で、非人間的な状況に追いやられた労働者や生活者が協同することで、人間らしさを取り戻そうとする試みでもありました。

 逆説的に言えば、市場原理主義を基軸とした資本主義のような仕組みが形成されなければ、協同組合も生まれなかったといえます。そして、資本主義経済の中で生まれて活動するがゆえに、資本主義の制度に引きずられて転換(変質)するといった不安定性を常に抱えています。これを制度的同型化といいます。

 例えば、生活者のための小売店である生協が、営利目的のスーパー化していくことがあります。ヨーロッパの生協などは、1970年代にそのような経験をしました。

 また、協同組合が行政機関化していくこともあります。2003年に指定管理者制度が施行されて以降、行政は児童館や学童保育の子育て施設、図書館や博物館などの公共施設の管理・運営を、営利・非営利に限らず民間組織に委託することができるようになりました。

 その結果、利用者にとって本当に必要なサービスを提供するというよりは、行政の下請け機関のようになり、決められた予算や定められた仕様に基づくサービスの範囲で活動するということも起きています。

 しかし、原理・原則をしっかりと定め、人間らしい暮らしと仕事を地域につくる活動を行っている協同組合もたくさんあります。それが、資本主義経済の暴走や限界に警鐘を鳴らす人たちの間で協同組合が注目される理由になっているのです。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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