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人間らしい暮らしと仕事の創造者「協同組合」

大高 研道 大高 研道 明治大学 政治経済学部 教授

暴走する資本主義経済によって社会は崩壊する

 協同組合が一般的な株式会社と大きく異なるのは、設立の主旨だけではありません。

 例えば、会社の運営は経営陣が行い、株主は株の保有数によって議決の票数が決まる株式会社などに代表される民間営利企業と違い、組合員自らが出資し、運営に参加する協同組合では、出資額が異なっていても1人1票の議決権を行使できます。つまり、民主的な運営が行われているのです。

 逆にいえば、これをどれだけ貫徹できるかが、協同組合の生命線ともいえます。そのためには、組織のミッションを常に組合員同士で確認し合い、共有する対話的な空間や学び合いが大切になります。そのことによって、制度的同型化に歯止めをかけることもできます。

 すると、制度的同型化されない協同組合のあり方そのものが、暴走する資本主義経済に対して、人間らしさを回復するひとつの活動のあり方になるのです。

 ハンガリー生まれの経済学者であるカール・ポランニーは、1944年に出版した著書『大転換』で、封建的な社会にはなかった自由というものを、資本主義社会は重要な概念にしたことを確認しつつ、自由にはそれにともなう責任があり、それを失うと社会は崩壊すると指摘しています。

 それは、一人ひとりがあまりに自由であることによって、他者や社会への信頼を失い、個別化し、孤立していくからです。

 ドイツの社会学者ウルリッヒ・ベックは、1986年に著した『危険社会』で近代化の過程を分析し、リスクや不安、困難をひとりで抱え込み孤立する個人と社会の姿を描いています。

 イギリスの社会学者ジョック・ヤングは、ベックの指摘したリスク社会において人びとが直面している問題の本質を「存在論的不安」と表現しています。それは、自分がコミュニティや社会にちゃんと埋め込まれているという安心感を得られない状態であり、存在そのものの意味を実感できないような社会を意味しています。まさに、いまの社会の特徴を表していると思います。

 1998年、アジア人として初めてノーベル経済学賞を受賞したアマルティア・センは、人間的発達アプローチを基盤とする経済学を提唱しました。それは、人間らしい生き方、働き方を基軸とした社会的経済の実現にむけた知的挑戦といえます。

 つまり、暴走する資本主義経済によって分断され、孤立する私たちにとって、人間らしさを回復する社会的経済の仕組みが必要なのであり、その重要な主体のひとつが協同組合であると、私は考えています。

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