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2017.10.11

体内時計を狂わすような生活は、人類を滅ぼす!?

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体内時計の仕組みを応用したさまざまな研究が進んでいる

中村 孝博  実は、体内時計の研究はいまから20年ほど前に、哺乳類の時計遺伝子が発見されたことで飛躍的に発展しました。人の体内時計を支えているのは視交叉上核だけでなく、全身のひとつひとつの細胞にある時計遺伝子が概日リズムを刻んでいることがわかったのです。すなわち視交叉上核は、さまざまな細胞の時計遺伝子の働きも統括している、まさに中枢時計だったのです。

 全身の細胞に時計遺伝子があることがわかったことで、さまざまな研究への応用が進みました。例えば、いま私は家畜脂肪細胞の分化に関する研究を行っています。これは、細胞の時計遺伝子が脂質代謝の遺伝子に直接働きかけることで、脂質の代謝が促進されたり、抑制されるという研究が基になっています。つまり、時計遺伝子のリズムによって、太りやすくなったり、太りにくくなったりするわけです。私たちの日常でいえば、夜、ものを食べると太りやすいことを実感したり、食事時間を考えたダイエットが紹介されたりしています。それは時計遺伝子の働きによるのです。この仕組みをしっかりと解明して家畜に応用すれば、いままでと同じエサの量で、もっと効率的に太らせることが可能になるわけです。近年、食糧問題の解決策として実用化され始めた遺伝子操作には安全性に対する不安がありますが、体内時計の働きを応用した方法であれば、よりナチュラルで、より安全なのです。

 また、医療の分野では、時間治療が実用化され始めています。例えば、がん治療において、強い抗がん剤を投与する方ががん細胞には効果的です。ところが、抗がん剤が強くなるほど、副作用として健康な細胞にも影響を与えてしまいます。そこで、健康な細胞の活動が緩やかな時間帯、それは例えば睡眠時などですが、そのタイミングに抗がん剤を投与すれば、健康な細胞への影響を最小限にしつつ、がん細胞を効率よく攻撃することが可能になるのです。今後も、体内時計の仕組みを解明し、応用していくことで、より効果的な治療法がさらに開発されていくものと期待できます。

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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