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耳をすませばリアルな音が聴こえてくる ―音環境と人間の感覚の行方―

明治大学 理工学部建築学科 准教授 上野 佳奈子

保育園の増設がはらむ音環境の問題

上野佳奈子准教授 「オープンプラン教室」に加えて、私が取り組んでいるのが「保育園」の音環境の問題です。待機児童増加に伴い保育施設は増加・多様化の傾向にあり、保育園を増設し“待機児童ゼロ”を宣言した自治体もあります。喜ばしいことともいえますが、見過ごすことのできない問題もはらんでいます。保育園は一般的にゼロ歳児から就学前の5歳児までを預かる施設です。最近増加傾向にあるのが、年齢別に部屋を仕切ることなく、一つの部屋にすべての園児が一緒にいる施設です。駅ビルの空室などを利用した、テナント型と呼ばれる保育園によく見られるもので、私が訪問調査した保育園では100名以上の園児が仕切りのない一つの部屋で過ごしていました。そうした状況下で音環境はどのようなものでしょうか。一言でいえば、凄まじいともいえる“うるささ”です。近くで使われている掃除機の作動音が聞こえないといえば、その音環境を理解してもらえると思います。この状況を放置しておいていいわけがないことは自明のことです。睡眠障害も危惧され、記憶力や免疫力などにも影響を及ぼしかねません。そこに勤務する保育士にとっても厳しい環境です。言葉を伝える際に大きな発声が必要となり喉を痛める人、難聴気味になる人も少なくありません。これまで、保育園の環境整備というと、衛生面の関心は高かったものの、音に関してはおざなりにされてきました。「オープンプラン教室」の音環境に関する研究はここ数年で進捗を見せていますが、保育園に関しては緒についたばかりです。子供たちや保育士にとって、快適な音環境を実現するために、建築からのアプローチで何ができるのか。調査・検証を進める中で、問題解消の糸口を見出していきたいです。

人類の進化に音が果たした役割

 ここまで私の取り組みを話してきましたが、“音”とヒトとの関係に言及してみたいと思います。音と人間の行動・感覚の関連性についての考察です。たとえば、なぜ、ネアンデルタール人は絶滅して我々の祖先は生き延びたか、という問いを立ててみましょう。考古学研究では諸説ありますが、私はコミュニケーションが成立せず集団のパワーが発揮されなかったためと考えています。生き延びた我々の祖先は、情報伝達、コミュニケーションのツールとして音を活用しました。音で集団をまとめ上げることでパワーを発揮したのです。つまり、人間は、集団における音の伝達・共有に支えられて繁栄してきたわけです。たとえば、ヨーロッパの教会。そこは神と交信する非日常空間です。そのコミュニティを演出したのが教会音楽に代表される厳かな音の響きでした。教会だけでなく、オペラハウスやコンサートホールも人が集い、音場を共有する場所として発展しました。そのような文化的背景をもつ人々は、非日常性を演出する響きの効果、そして場合によっては響きが働く悪さも知っています。では、日本はどうでしょうか。日本の建築は柱梁構造であり、文化的に響きとは縁が薄い。西欧で発展した建築のカタチという側面はうまく日本の文化に融合しましたが、音に関わる思想的側面が取り入れられていないという現状が、日本の音環境の本質的問題として残されています。

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