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インフォームド・コンセントのための“言葉”を創る

明治大学 国際日本学部 教授 田中 牧郎

インフォームド・コンセントをサポートする本の完成

 それまでの反省から、委員会には私たち言葉の研究者だけでなく、医師にも加わってもらいました。医師はもちろん医療のことはよくわかっていますし、ベテランの医師は患者とのやり取りの蓄積があり、難しい専門用語の言い換えや説明のノウハウがありました。こうした医師たちの意見を取入れ、まず報告書的な小冊子を作り、それを大きな病院や医師会、看護協会などに配布し、それを見た現場の医療従事者から意見をもらい、修正を加えながら、最終的には「病院の言葉を分かりやすく」という一冊の本にまとめ、書店での一般販売にも至りました。

 この本の特徴は、難解な医療の専門用語の意味を単純に説明する、いわば医療用語辞典のようなものではなく、その言葉の概念とは何なのか、その治療法、あるいはその病気は何なのか、何がポイントなのか、それは患者の立場で見て何が大事なのか、あるいは医師の立場で患者を治すためには、どの部分を患者に知ってもらうことが必要なのか、そこを丁寧に説明する構成になっているところにあります。それによって、患者への説明の仕方、言い換えの仕方がみえてくると考えたからです。このような本が必要となった背景には、患者は医師の判断に黙って従って治療を受けていた時代から、病気や治療法について医師から十分な説明を受け、その内容を理解した上で、患者自身の自由な意思に基づいて医師の方針に合意し、あるいは拒否をする、インフォームド・コンセントが普及した時代へという変化があります。つまり、患者自身こそ治療を決める主体として尊重されるようになったのであり、医師は専門家としてそれをサポートするために、非専門家である患者に対してわりやすい説明を行う責任を持つようになったのです。

 完成したこの本は、医師をはじめとした多くの医療者が使っているほか、これから医師になる医学部の学生たちも、患者に説明する実習の際の参考にしているといいます。また、患者もこの本を読むことで、最初は何がわからないのかもわからなかったのに、自分はどこがわからなかったのか、どこでわからなくなったのかがわかるようになったといいます。こうして、医師のコミュニケーション力が上がり、 “わかる”患者が増えることで、インフォームド・コンセントの質がさらに高まっていくことを願います。

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