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出会うことからすべてが始まる ―現代版ツーリズムのススメ―

佐藤 郁 佐藤 郁 明治大学 国際日本学部 専任講師

平和のパスポート、ツーリズム

佐藤郁専任講師 今日の日本ではツーリズムを産業として捉え、直接的な経済効果が重視されることが多い。しかし、ツーリズムの役割は、経済だけに留まるものではなく、文化交流や相互理解の促進など民間レベルの交流にも大きく寄与する。その意味で、まさにツーリズムは「平和のパスポート」(注)ということができる。
 また、ツーリズムによる地域の結束や、海や国境を越えた地域間の連携に果たす役割も注目されるようになってきている。イギリスでは、EU加盟に懐疑的な見方が長く存在し、ヨーロッパの主要国に遅れて加盟は果たしたものの、大陸ヨーロッパとの意識の隔たりは容易に解消していない。そこでツーリズムを通じて大陸ヨーロッパとの交流を促し、異なる人や組織、地域で協働するプラットフォームを作り、相互理解を推進するプロジェクトが様々なレベルで実施されている。人々の生活に身近なツーリズムを通じて、人が交流することで地域間の結びつきを強化し、既存の境界線を越えるネットワークを築くことは、他の分野での連携を促進するきっかけになる。現在、国際社会で起きているグローバル・イシューの多くは、政治的な軋轢の中で解決できないことも多い。今こそ、地域間を様々な形で人が交流することによって、結びつきを強化していくツーリズムが果たす役割は大きい。

ツーリズムで、日本を知り、世界を知り、自分を知る

 ツーリズムとは、外部との交流を通じて、地域のアイデンティティを掘り起こすことでもある。自らの地域への帰属意識を高める一方、本当はどこの地域と繋がっているのか、行政区域では計れない、可視化されていない新しい地域が見えてくる。
 日本では観光立国の実現にむけて、21世紀における日本の主要な政策の柱として観光が明確に位置づけられるようになった。日本の地域の経済社会の発展に加え、ツーリズムは国や地域が協働するプラットフォームとなり、地域のアイデンンティティを掘り起し、日本を見直し、再発見する手段としての役割も担う。海外に向けては、行政単位の観光資源からのみ考えるのではなく、海外の人が興味を持つように広域でストーリーを組み立て、オールジャパンとして発信することが有効と思われる。
 ツーリズムは、日本や世界の国や地域の社会システム、政治、文化などの類似性や違いを認識し、世界の中の日本、日本から見た世界を知る最も身近なツールのひとつである。学生の皆さんには、ぜひ貪欲に知的好奇心を胸に、積極的に海外に出かけて行ってほしい。日本を紹介すると同時に、日本がどのように思われているかを感じてほしい。そして、メディアで言われていることが本当なのか、自らの目で確かめてほしい。海外を知ることは、日本を知ることであり、自分を知ることだ。すべては、新たな出会いから始まる。

(注)国連は1967年を「国際観光年」と定め、「観光は平和へのパスポート」の標語を掲げて、国際観光の普及と観光事業の振興を図った。

※掲載内容は2013年7月時点の情報です。

>>英語版はこちら(English)

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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