ビッグデータや人工知能、テクノロジーとともに発展し続ける統計学
統計学は、さまざまな現実の問題に答えるという要請を満たすために、常に最新のテクノロジーを取り入れて発展してきました。データを扱う手法を考案するのは人間ですが、実際に計算が行えるかどうかは、その時代の計算機の性能にも大きく依存します。現在では、スパコンなどを使わなくても一般的なパソコンでひととおりの処理を行うことができるようになり、スマートフォンやウェアラブル端末などの普及によってデータソース自体も増え続けています。今まで統計学とは縁遠かった領域でも、統計学が扱うべき新しい問題が次々と生まれるのではないでしょうか。
そして今、最も興味深いのは、人工知能と統計学の関係です。多くの分野に革新をもたらしている人工知能ですが、統計学でも、ニューラルネットワーク(人間の脳神経を模した人工知能の回路)による深層学習を用いた手法がかなりの性能を発揮することがわかり、話題になっているのです。
人工知能が統計学的問題をどのように処理し、なぜ高い精度を発揮することができるのかを検証してゆくことはとても重要な課題です。それには従来の統計学の手法だけでは足りそうになく、数学の理論を新たに導入したり、まったく新しい理論を打ち立てたりする必要もあるでしょう。深層学習についての理解を深めていく中で、統計学はさらに飛躍的に進歩するのではないでしょうか。
そのほか、量子力学の特性をいかした量子統計の基礎研究に着手している研究者もいます。こちらも量子コンピュータとともに実用化されれば、とても大きなインパクトがもたらされると言われています。
こうしたテクノロジーの進歩とともに、社会の重要な場面での統計学に対するニーズも高まっています。医療や政策といった分野では、因果推論にもとづく分析結果をエビデンスとして意思決定に反映させることが当たり前になりつつあります。その一方、最もベーシックな記述統計学も、人間が把握しきれないデータを人間にわかりやすく見せてくれるものとして、引き続き必要とされてゆくでしょう。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。
