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2023.12.07

数学的見地から、生物多様性の保全をはじめとする社会課題の解決へ

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複雑な条件下では従来の数理モデルが通用しないケースも

 このように便利な個体群動態モデルですが、どんな場合でも既存の方程式が成立するわけではありません。

 注意しなければならないのが、生物種が生態系の中で占める位置を指す「ニッチ(生態的地位)」。動物であれば食物や生息場所、植物であれば太陽光や根を伸ばす土壌など、あらゆる生物には生息するために欠かせない環境があります。異なる生物種のニッチが一致したとき、お互いの種の存続のために競争や捕食・被食といった相互作用が生まれるため、長期間共存することは難しくなります。

 人間が手を加えて、生物群の増殖率や空間移動率といった要因をコントロールすることはできますが、ニッチそのものを操作することは容易にはできません。特に、競争力の強い生物種が同じニッチに存在する場合は、他の要因にかかわらず結果が決まってしまうことがあります。こうした知見は、個体群動態モデルにさまざまなパラメーター(変数)を当てはめ、結果を分析する中で浮かび上がってきたものです。

 令和5(2023)年3月に閣議決定された「生物多様性国家戦略2023-2030」では、多様な生物のニッチを守る方策の一つとして、「緑の回廊」の管理が掲げられました。これは人間の社会活動によって分断された生物の生息地間をつなぎ、主に動物の移動を可能にすることで、生物多様性を確保しようとする試みです。

 回廊で繋がれた複雑なネットワーク状の生息域を行き来する生物の様子を探るためには、新たな個体群動態モデルを編み出さなくてはなりません。こうした社会変化を捉えながら、数理生物学の分野では日進月歩の発展が続いています。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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