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人はアリに学ぶと、理想的な社会をつくれる!?

西森 拓 西森 拓 明治大学 研究・知財戦略機構 特任教授

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アリは社会性昆虫と言われます。女王アリと働きアリとごく少数のオスアリが存在し、働きアリたちは様々な任務を分業し、協働して集団を繁栄させているからです。このアリの活動は人間社会にも応用できると考えられ、そのために、アリの行動を数理モデル化する研究が本学でも進められています。

リーダーなしで協働、分業を行うアリの社会

西森 拓 様々な生き物には、人間を上回る能力があることが知られています。

 例えば、犬の嗅覚は人間の1000倍から1億倍もあると言われますし、猫の聴覚は4倍以上と言われます。ノミのジャンプ力は身長の150倍あるので、人間であれば30階建てのビルを飛び越える力です。同じく、私たちの身近な生き物であるアリにも、人間をはるかに上回る能力があるのです。

 アリといえば隊列による集団的な餌取り行動を思い浮かべる人が多いと思います。個々のアリがフェロモン(誘引物質)を分泌し、他のアリがそれを追尾することで、巣と餌を結ぶながい隊列が維持されるわけです。いわば、フェロモンという「言葉」を介して、おおぜいのアリが餌のありかに関する情報を共有するのです。

 しかし、それだけではありません。

 例えば、熱帯地域などで見られるハキリアリは、餌を直接採集するのではなく、葉っぱを採って来ては、そこに菌類を培養し、それを餌とするのです。つまり、人間でいえば農業のような営みを行っているのです。

 ハキリアリたちは全員でひとつの仕事を行うのではなく、葉っぱを採ってくる者、その葉っぱを適度な大きさに切る者、菌を上手く定着させる者、菌の培養所を敵から守る者など、細かく分かれた役割分担を行っているのです。

 すなわち、単に集団行動を行っているのではなく、非常に高度な分業システムによりコロニーを運営しているわけです。

 ハキリアリがこうしたシステムで自分たちの農業を行い始めたのは、約5千万年前からと考えられます。人類が農業を始めたのは1万年前くらいですから、その持続性や安定性は雲泥の差です。

 実は、ハキリアリだけでなく私たちの身近にいるアリも、菌の栽培こそ行っていないものの、協働と分業でひとつのコロニーを運営しています。すなわち、採餌や子育て、巣の拡張など、それぞれのアリがそれぞれの任務を担っているのです。

 こうしたシステムがうまく回る仕組みとして、例えば、女王アリが指示を出し、それによって働きアリたちがスムーズに分業しているように想像します。

 ところが、アリたちの生態を調べていくと、分業を指示するようなリーダーは存在していないことがわかるのです。

 例えば、女王アリは、女王という名称がつけられているので誤解しやすいのですが、生殖の役割を担っている者であり、決してコロニーの中の司令塔ではないのです。

 フェロモンという情報共有物質はあるものの、それによって誰かがみんなに分業の指示を出しているということはないのです。

 構成個体が10000匹以上いることも珍しくない各々のコロニーが、個々のアリの自己判断によって協働、分業がなされ、繁栄しているのです。

 人間社会でいえば、王も首相も大統領もおらず、国民ひとりひとりが状況を自ら判断し、常に、いま最適な任務に就いて社会全体を繁栄させ続けている国ということになります。ある意味、理想の国といえるかもしれません。

 なぜ、アリが、リーダーのいない自動分業の社会を可能にしているのか、実は、まだ十分には解明されていません。調べれば調べるほど、アリのすごさがわかってくる状況なのです。

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