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日本の折紙が世界にイノベーションを起こす

萩原 一郎 萩原 一郎 明治大学 研究・知財戦略機構 研究特別教授

折紙式3Dプリンタから始まるイノベーション

 さらに、私たちが進めている折紙ロボットですが、こうしたロボットの開発は世界中で試みられています。しかし、なかなか上手くいかないのです。原因は、複雑な折りが重なる場合など、折っていくと、最初に折っておいた部分が元に戻ってしまったりするからです。

 ところが、研究を進めると、手先が器用で折紙が上手な日本人などは、一度折った部分を手の一部で無意識的に抑えながら、次の折りを進めていることがわかりました。これは、外国人には難しい折紙を、日本人は折れる理由と同じかもしれません。

 また、ある立体を作るための展開図はひとつではなく、いくつもあります。ところが、日本の折紙は簡単な折り方ではなく、適度に難しい折り方が伝わっていることがわかりました。おそらく、その方が折紙を楽しむことができるからでしょう。

 しかし、それではロボットの指であるマニプレーターには難しいわけです。そこで、マニプレーターでも折ることができる折り方に導く展開図を作るアルゴリズムを、私たちは開発したのです。

 折紙に切紙の技術を加えた展開図を作るアルゴリズム、そして、それを折り上げるロボット、マニプレーターと、これら一連の開発によって、折紙式3Dプリンタの実用化が近づいています。

 それが完成すれば、メタマテリアルの創造に拍車がかかりますし、その大量生産も可能になるわけです。

 実は、メタマテリアルの創造が容易になることから、折紙式3Dプリンタのような装置の開発は世界中で懸命に進められています。特に、MIT(マサチューセッツ工科大学)とハーバード大学の連合チーム、そして、イギリスのブリストル大学が研究の二大拠点となっています。

 しかし、折紙や切紙は日本が育んだ文化、技法です。だからこそ、その展開図を作るアルゴリズムの開発や、マニプレーターの開発において、私たちは日本人ならではの発想、着眼点を持つことができたと思います。

 このメリットを活かし、ぜひとも折紙式3Dプリンタの実用化に繋げたいと考えています。

 実は、積層型3Dプリンタにおいても、その基幹技術を最初に発表したのは日本の研究者である小玉秀男氏です。

 しかし、それを実用化したのはアメリカのエンジニアです。その結果、いま、ほとんどの積層型3Dプリンタがアメリカ製です。この歴史は繰り返したくないと、私たちは考えています。

 積層型3Dプリンタも革命を起こすものと称されましたが、メタマテリアルの創造を容易にする折紙式3Dプリンタは、それ以上のインパクトを持っているからです。

 なぜなら、これからのイノベーションはメタマテリアルによって起こると考えられているからです。それは、宇宙などの分野にとどまらず、医療など、私たちの身近な様々な分野に及ぶのです。

 これからの社会にイノベーションを起こすメタマテリアルと、それを可能にする折紙式3Dプリンタに、皆さんも注目していただき、この研究開発分野にたくさんの人材が入ってくることを期待しています。

 その第一歩として、日本の伝統文化である折紙や切紙を楽しみ、興味、関心を持ってみてください。

>>英語版はこちら(English)

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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