2024.03.21
- 2022年3月18日
- IT・科学
ダークウェブで暗号資産が通貨になっている理由を考えると…
土屋 陽一 明治大学 商学部 教授
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日本では、ダークウェブ上のサイトを闇サイトなどと呼び、非常に危険なもの、いかがわしいものと見なしがちです。しかし、インターネット自体がそうであるように、ダークウェブもまた、先端の技術などを活用しており、私たちの社会の未来を示唆している面もあるのです。
匿名性が高い通信技術によってできたダークウェブ
ダークウェブとか、闇サイトという言葉を聞いたことがある人は多いと思いますが、それは一体どういうものなのか、知っている人は少ないのではないでしょうか。
それも当然で、ダークウェブとは、Torと言われるネットワーク技術を用いており、私たちがインターネットを利用する際に使っている一般的なブラウザ(例えばEdgeなど)では見ることができないからです。
とはいえ、実は、Torは公開されており、一般のインターネット上で無料でダウンロードできます。また、Tor上のブラウザも無料で利用できるので、ダークウェブを見ようと思えば、誰でも見ることは可能です。
そもそも、Torを開発したのはアメリカの海軍の研究所です。Torとは、TheOnionRouterの略で、その名の通り、玉ねぎのように何層ものレイヤーによって通信者を隠すという技術です。つまり、軍としては、諜報活動などに用いるために開発したのです。
この技術が一般にオープンにされると、人権が守られていないような国などで活動する反体制派の人たちや、ジャーナリストたちが通信手段として用いるようになります。
また、最近では、組織などの不正を匿名で告発するために使われることもあります。イギリスの放送協会BBCは、Torを用いた告発サイトを開設しています。
つまり、民間でもTorの開発目的に沿ったような利用が行われているのです。
一方で、違法なものを売買していた人たちもTorに注目します。例えば、麻薬などの違法薬物や、銃器、偽造カード(銀行カードやクレジットカードなど)、偽造ID(パスポート、SNSなどのアカウント)、個人情報など、公に売買できないものを隠れて売買している人たちにとって、匿名が守られるTorは格好の技術だったわけです。
Torの技術を用いたダークウェブ上に、最初に誕生した、いわゆる闇サイトは「SilkRoad」と言われます。
このサイトは、運営者が直接売買をするのではなく、売りたい人が出店するプラットフォームになっています。つまり、「SilkRoad」に店を出す売人も、その店で買う客も、その人を特定することが非常に難しい仕組みになっているのです。
この「SilkRoad」は非常に繁盛し、ダークウェブが一般に知られるきっかけにもなりました。そのため、ダークウェブ=闇サイトで、怖いものというイメージが生まれたのだと思います。
しかし、当然、司法機関が「SilkRoad」のようなサイトを野放しにしておくわけはなく、2013年10月、FBIによって運営者は逮捕され、サイトは閉鎖されました。
しかし、その後も似たようなサイトがダークウェブ上に次々に誕生し、それをFBIやEuropolなどが捜査し、運営者や売人、ユーザーを逮捕する、というイタチごっこが続いています。
では、身元が特定されないはずのTorを使っていながら、なぜ、サイトの運営者やそこで売買する人たちが知れるのか。実は、技術的な問題ではなく、人為的なミスによるケースが多いのです。
裁判記録などを見ると、例えば、「SilkRoad」の場合、運営者は「SilkRoad」を立ち上げたときに、このサイトの利用を求める、いわば宣伝をダークウェブ上の掲示板に掲載していたのです。
しかも、そのときのアカウントが本人名義のGmailでした。それを、FBIによって突き止められたのです。
また、捜査機関側は運営者を逮捕しても、それをすぐには公表せず、サイトを管理下に置いて開いておく、おとり捜査を行ったりもします。そこで、売人と客のやり取りを確認し、例えば、薬物を郵送する情報から身元を特定するのです。
要は、優れた技術を悪用するのも人なら、そこに、綻びを生むのも人ということです。技術をどう活かすのかは、やはり、人なのです。