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2022.03.09

世界で認められてこなかった「旨味」が味覚研究の鍵になっている

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旨味受容体がもたらした鳥の食性の変化

 味覚受容体が発見され、その遺伝子情報がわかったことで、培養細胞にその遺伝子を導入することが可能となり、味覚受容体がどのような物質に反応するかという研究が加速しました。それが、ここ20年ほどの間に、味覚のメカニズムの急速な解明に繋がっています。

 さらに、旨味受容体の解明は、味覚の基本味にumamiを加えただけでなく、生物の進化の解明にも繋がってきているのです。

 例えば、鳥は、甘味受容体を作るための遺伝子が壊れてしまっています。つまり、鳥は甘味を感じることができないのです。

 ところが、アメリカ大陸に生息しているハチドリという鳥は、花の蜜を主食としています。それによって糖を摂取しているのですが、甘味を感じず、すなわち、花の蜜を美味しいと感じないはずの鳥がそれを好んで食すのは奇妙なことです。

 しかし、私たちはハチドリの旨味受容体を解析し、旨味受容体が糖の成分に応答するように変化していることを、2014年に明らかにしました。

 なぜ、そのような変化が起きたのかは、まだ、はっきりとはわかっていません。

 ハチドリの近縁種であるアマツバメは昆虫食で、旨味受容体は糖に応答しません。

 おそらく、ハチドリの祖先も昆虫食であったと思われますが、たまたま、花の中にいる昆虫を食したとき、一緒に花の蜜も口に入り、それが体のエネルギーになることを経験したのかもしれません。

 その後、旨味受容体に変異が入り、花の蜜を好むことができる種が現れ、それが生存競争の中で生き残る力になっていったのではないかと考えられます。

 同じことが、鳥類の約半数を占める鳴禽類にも起きています。そのことを、私たちは2021年の夏に発表しました。

 彼らの祖先はもともとオーストラリアにいましたが、花の蜜を食することができるようになり、それによって生存能力が上がったことで、彼らは世界中に広がっていくことができたのではないかと考えています。この中には、日本に生息するメジロやヒヨドリも含まれています。

英語版はこちら

※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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