科学と技術の共進化によって生まれる技術パラダイム
人類が新しい技術パラダイムを生み出してきた、つまりイノベーションを起こした歴史を分析すると、そこには科学と技術の共進化があることがわかります。
例えば、パスツールによるワクチン(1880年)、ベーリングと北里柴三郎による血清(1890年)、エールリヒと秦佐八郎による梅毒の治療薬であるサルバルサン(1910年)、フレミングによるペニシリン(1928年)。
これら、製薬分野における技術パラダイムは、実は、フランス出身の化学者であるラボアジエ(1743年~1794年)による、いわゆる化学革命(1783年)と呼ばれる新しい科学知識の確立を基盤として次々と生み出されているのです。
しかし、この科学と技術の関係は一様ではありません。新しい科学知識と新しい技術パラダイムの誕生の間に長いタイムラグがあったり、新しい技術が先にできて、それが新たな科学知識を生み出すようなこともあるし、科学的な発見と一体となった技術の進歩もあります。
例えば、化学革命という従来になかった新しい科学知識によってワクチンという技術パラダイムが生まれ、それは科学知識の進歩を促して血清を生み、それが、また新たな科学知識を促し、サルバルサンやペニシリンに繋がっていったのです。
さらに言えば、パスツールのワクチン以前にも、天然痘に罹った人のかさぶたを鼻の穴に入れれば天然痘に罹らない、という言い伝えのような民間療法がありました。
すなわち、発症者のかさぶたを基に抗体をつくる方法です。もちろん、科学的な知識によるものではありません。
しかし、人類は体験の積み重ねからもパラダイムを生み出しているのです。それを技術パラダイムへと確立するのが科学的な理解というわけです。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。