新時代の冷凍・空調技術を目指す「磁気ヒートポンプ」
熱資源の有効利用やCO2の排出削減を進める方法として、ひとつは、機器の効率を高めることがあります。
例えば、近年では、エアコンや冷蔵庫、冷凍設備などに必ず使われている技術にヒートポンプがあります。
この技術は開発の歴史が長く、完成された技術のように見なされてきましたが、冷媒として使われているフロン系ガスが、温室効果が非常に高い物質であることがわかり、その代替物質を見出すことが喫緊の課題となっているのです。
エアコンがどうやって室内を冷やしているのかというと、液体状態の冷媒が室温以下の0℃くらいの温度で充分に沸騰するものであることがポイントなのです。
エアコンの室内機が取り入れた空気は、熱交換器を介してこの液体状態の冷媒に熱を与えます。すると、冷媒はボコボコと沸騰します。そのとき、部屋の空気の熱エネルギーは冷媒の沸騰に使われるわけです。そのため、空気の温度は下がり、それが部屋の中に吹き込まれます。
一方、空気の熱エネルギーによって沸騰してガスとなった冷媒は室外機に送られ、そこで、大気に放熱します。エアコンの室外機がものすごい熱風を放出しているのは、冷媒によって、いわばポンプのように汲み上げられた室内の熱エネルギーなのです。
放熱したガス状態の冷媒はコップに付く結露水のように、また液体に戻ります。そこで、室内機に戻され、また沸騰してガスになる、という循環を行うのです。
当初、この冷媒に用いられるフロン系物質に高い地球温暖化効果やオゾン層破壊効果があることがわかり、代替フロンが開発されました。しかし、その代替フロンにも地球温暖化効果があり、特に規制の厳しいヨーロッパが主導して日本を含む先進国では、2020年から代替フロンも原則全廃となる規制が始まっています。そのため、このようなフロン系冷媒に代わるあらたな冷媒および冷凍技術の研究開発が世界中で進められています。
そこで、私たちが開発を進めているのが、「磁気ヒートポンプ」です。磁石を近づけると温度が上がり、磁石から離れると温度が下がるという素材を利用した技術です。
メリットとしては、フロン系冷媒を含む温室効果ガスを一切使わないので環境へ与える影響が少ないこと。また、従来の冷凍方式に比べて少ない電力で同じ効果を発揮することもできます。つまり、省エネになるのです。
課題として、コストと、カーエアコンに利用する場合の重さと大きさの問題があります。そこで、実用化を目指して、企業との共同開発を進めています。
※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。