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私たちの身近にある熱エネルギーには多様な可能性がある

川南 剛 川南 剛 明治大学 理工学部 教授

蓄熱技術で熱エネルギーの様々な活用を考える

 さらに、熱エネルギーを有効利用する方法として、蓄熱技術があります。これは、環境や状況、目的などによって、様々なやり方が考えられます。

 例えば、電力消費は一般的に午後2時から3時くらいがピークで、発電設備などはそれに合わせて整備されます。しかし、夜は稼働が落ち、昼と夜では大きなギャップが生まれます。

 そこで、たとえば夏場であれば、夜の電力で氷を大量に作り、それを昼のエアコンの稼働の助けに使うことができれば、昼の電力消費が下がり、発電設備の省力化に繋げることができます。

 また、たとえば日中の太陽熱を夜間の入浴のための熱に利用したいのであれば、水を60℃くらいで蓄熱することが考えられますし、製鉄所などの廃熱は200℃くらいあるため水では蓄熱できないので、金属で蓄熱することなども考えられます。

 このように必要な蓄熱温度帯に応じて、最適な媒体となるものを設定することが上手な蓄熱に繋がります。

 私たちの研究室では、氷スラリーという、氷粒子を含んだシャーベット状の氷を媒体にする研究を行っています。これは、水よりも大きな冷熱蓄熱効果があり、固体の氷よりも輸送が便利というメリットがあります。

 例えば、病院で、夜間に氷スラリーを大量に作っておくのです。そして、院内に氷スラリー用の配管を整備しておけば、必要な手術室や病室で迅速に利用することができます。また、緊急搬送される人の患部を冷やす場合、氷スラリーは氷よりも扱いが楽で、水よりも急速に必要な部位を冷やすことができます。

 要は、使いたいのは蓄えた熱エネルギーであり、媒体となるものはそのために最適なものを考えれば良いのです。

 例えば、入浴後のお湯を捨てるのはもったいないが、翌日も、そのお湯を沸かし直して使うのは不衛生、と考えがちですが、使うのは、前日のお湯の熱エネルギーで良いのです。それを回収して再利用する方法と、そのための媒体を考えれば、それは、身近な蓄熱技術になります。

 そうした意味でも、熱エネルギーのことや、身近な家電にも利用されているヒートポンプなどの仕組みについて知っておくことは、一般の生活者の皆さんにとっても有効だと思います。それは、身の回りの自然現象を上手に活かして快適な生活を実現するための知恵にもなるからです。

 例えば、最初に述べたように、熱エネルギーはとどまっていることはありません。風が吹くように、常に高い温度から低い温度に向けて流れています。すると、そこに風ではなく“熱”で回転する風車を置けば、一見、なにもないところから仕事を生み出したり発電をしたりすることができるかもしれません。私は、それを「熱の風車」と呼んでいます。

 熱エネルギーの仕組みから、こんなアイデアを考えることも楽しいし、暮らしを豊かにするきっかけになると思います。

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※記事の内容は、執筆者個人の考え、意見に基づくものであり、明治大学の公式見解を示すものではありません。

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